なぜ自分はこんなにネガティブなんだろう。そう思ったことはないだろうか。何かあるたびに悪い方向に考えてしまう。上司がため息をついただけで「自分のせいだ」と思い込む。気づけば「自分はダメだ」という思考がぐるぐると頭を回っている。こんなとき、どうしたらいいのだろうか。
『会社から期待されている人の習慣115』(ダイヤモンド社)の著者であり、815社・17万3000人の働き方を分析してきた越川慎司氏と、『人生が自動的にうまくいくレッスン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者であり、精神科医の藤野智哉氏よる対談に、その答えがあった。ネガティブな思考は「脳の省エネ機能」にすぎない。その仕組みを知るだけで、職場のしんどさは変わり始める。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局・石井一穂)

【精神科医が教える】職場で増えている「病気未満のしんどさ」の正体Photo: Adobe Stock

「病気未満のしんどさ」で悩む人が増えている

越川慎司(以下、越川) 藤野さんとは、はじめましてですよね。今回の対談を楽しみにしていました。

藤野智哉(以下、藤野) こちらこそ、越川先生と対談する機会をいただけて光栄です。

越川 私は企業の働き方・働きがいの支援をしているのですが、最近、うつ病などの職場での精神疾患が昔に比べてかなり増えていると聞きます。

 人手不足が深刻な中で、企業から「職場のメンタルヘルス問題をなんとかできないか」というご相談をすごく受けるんですね。

 私自身は医師ではないので直接アドバイスはできないのですが、すごく関心は高くて。

藤野 職場でしんどい思いをしている人はたくさんいますよね。ただ、全員が医療の必要な領域かというとそうではありません。

 だから、病気未満のしんどさをなくせるんじゃないかということで、今回の新刊『人生が自動的にうまくいくレッスン』を書いたところがあります。

しんどさの原因は「脳の省エネ機能」だった

藤野 本書では精神療法である「認知行動療法」のうち、主に「自動思考」をテーマにしています。

越川 自動思考とは、目の前の事象に対して反射的に浮かぶ考えや言葉のことですよね。

藤野 はい、そうです。ただ、自動思考は反射的に浮かんでは消え、あまり意識することはないわりに、私たちの気分や行動に大きな影響があるんです。

 目の前の席に座る上司がため息をついただけで、瞬時に「僕のせいだ」なんて思い浮かんで苦しくなったり。

 上司がため息をついた理由には、他の可能性もたくさん考えられるのに。

越川 私自身も精神的に落ちたことがあるのでわかるのですが、つい、目の前の事象を悪い方向に考えてしまうんですよね。なんてことはない出来事であっても、とっさに「自分がダメだから」と思ってしまう。その連鎖で、ずっと自分にダメ出しをしていたんです。

藤野 実際はそうではないのに、「これは自分のせいだ」と考えてしまう人は多いですね。

越川 本書を読んで、「瞬時にネガティブに判断する」のは、当たり前の「脳の省エネ機能」だと言いきられていたのに、ハッとしました。

 僕は自動思考でぐるぐる考える行為は、「ダメだ」と思っていたので。

 でも自動思考とは、「今までの経験をもとに瞬時に判断するという仕組み」であって、その仕組み自体は当たり前のことだと。

折れない人は「客観視」と「切り替え」がうまい

藤野 同じ脳の機能をもっていても、しんどくなる人とならない人がいるんですよね。このことを知っているだけで、毎日を少しラクな方向に変えることができるよ、ということを知ってほしくて伝えています。

越川 書き方も秀逸で、自動思考の説明を「ニュースの速報テロップ」と表現しています。

「ピコンと表示される速報テロップを確定情報だと思い込んでしまう」ことが、よくないんですよね。

藤野 自動思考は意識しないと、「速報であって確定ではない」ということが忘れ去られがちです。速報が間違っているのに、その速報をもとに次々と思考を進めてしまうんですよね。

越川 だから、自動思考を意識して、「この速報はあってるのか?」と手動に切り替えて考えることが大切なのかなと思いました。

『会社から期待されている人の習慣115』でも、こんな調査データを紹介しました。

 会社から期待されている人たちは、常に「機嫌がよい状態」をキープするよう心がけています。
 とくに顕著だったのが、会議のときです。
 218社で計3万2,000時間の社内会議を記録し、AIによる感情分析をしたところ、期待されている人の65%は会議時間の60%以上でポジティブな感情を表出しているとわかりました。

――『815社17万人を分析してわかった 会社から期待されている人の習慣115』より

 どんなに優秀な人だって、忙しかったり、トラブルが起きたり、後輩にプロジェクトを取られたり、朝の電車が遅れたりすれば機嫌は悪くなります。

 でもそこで、「あ、いま機嫌悪くなってるな」ってことに気づいて、口角を少し上げ、機嫌のよい「ふり」をし続けているんです。

 優秀な人は感情が乱れないわけではありません。乱れたことに気づき、自分で整えることができる人たちだったんです。

▶︎「病気未満のしんどさ」から抜け出すためのヒント
ネガティブな感情が浮かんだときは、以下のステップで「脳の手動切り替え」を試してみましょう。
・ステップ1:「これは確定情報ではなく、脳の速報テロップ(省エネ機能)だ」と自覚する
・ステップ2:「本当に自分のせいか?」と、他の可能性を疑ってみる
・ステップ3:機嫌が乱れたことに気づいたら、口角を上げて機嫌のよい「ふり」をしてみる

(本稿は、『会社から期待されている人の習慣115』の著者・越川慎司さんと、『人生が自動的にうまくいくレッスン』の著者・藤野智哉さんによる対談をもとにした書き下ろし記事です)

越川慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー 代表取締役社長
日系通信会社や外資ベンチャーなどを経て2005年にマイクロソフト米国本社へ入社。その後、日本マイクロソフトの役員としてExcelやPowerPointなどの事業責任者を務める。2017年には週休3日・複業を実践する会社、株式会社クロスリバーを設立し、800社以上の働き方改革を支援。年300回以上提供する企業向けオンライン講座の受講者満足度は平均96%、行動に移す受講者は95%以上。著書は『世界の一流は「休日」に何をしているのか』(クロスメディア・パブリッシング)や、『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など33冊、累計130万部。NHK、TBS、テレビ東京、PIVOT、NewsPicksやReHacQなどメディア出演多数。
藤野智哉(ふじの・ともや)
精神科医。産業医。公認心理師
1991年生まれ。秋田大学医学部卒業。幼少期に罹患した川崎病が原因で、心臓に冠動脈瘤という障害が残り、現在も治療を続ける。障害とともに生きることで学んできた考え方と、精神科医としての知見を発信しており、メディアへの出演も多数。SNS総フォロワー数15万人(2026年4月現在)。 精神科病院や医療刑務所で医師として働くかたわら、著述業にも精力的に取り組む。『「誰かのため」に生きすぎない』『「そのままの自分」を生きてみる』『人間関係に「線を引く」レッスン』(以上すべてディスカヴァー)はシリーズ10万部を超えるベストセラーに。『精神科医が教える 生きるのがラクになる脱力レッスン』(三笠書房) 『不機嫌を飼いならそう』(主婦の友社)など著書多数。