経営者が「CXは重要」と言いながら投資に本腰が入らない本当の理由とはdodotone / PIXTA

「それは、売り上げにどうつながるのか」——CX(顧客体験)に取り組む現場が、経営会議でしばしばぶつかる問いである。多くの企業は、CXの重要性を理解している。にもかかわらず、投資判断の場面になると議論は止まる。なぜか。問題は、CXのやり方にあるのではない。ブランドとCXを別々のものとして扱っていることにある。ブランドを「顧客の感情の記憶」と捉え直すと、CXは単なるサービス改善ではなく、将来の収益を左右する経営課題として見えてくる。本連載では、ブランドとCXをつなぐことで経営がどう動きだすのか、その原理と実践を論じていく。

CXに取り組んでも、会社は変わらない

 ある会議で、CXの取り組みを説明した担当者に、経営幹部の一人がこう問い掛けました。

「それは、売り上げにどうつながるのか」

 担当者はこう答えます。

「中長期的には影響が出てくるはずです」

 その瞬間、会議室は静まり、議論は止まってしまいました。

 多くの企業がCX(顧客体験)の重要性を認識し、施策を設計し、現場は動いています。CXに本気で取り組めば、顧客接点の改善にとどまらず、商品開発、営業、マーケティング、オペレーション、組織の意思決定まで見直すことになります。本来、CXは会社の在り方そのものを変える取り組みです。

 それにもかかわらず、CXに取り組んでも会社はなかなか変わりません。むしろ、取り組みを重ねるほど、関係部門の調整が増え、組織が動かなくなる場面すらあります。

 2025年、私は『いちばんやさしいCX経営の教科書』を上梓(じょうし)し、多くの方に読んでいただきました。その反応から、CXを現場で実践するための方法論には一定の手応えを感じました。

 しかし同時に、別の限界も見えてきました。現場がCXに取り組む方法を理解しても、それだけでは経営会議や投資判断の場面に届かない。CXを会社全体の変革につなげるには、まだ言葉が足りていなかったのです。

CXが「サービス改善の話」として扱われてしまう理由

 このままでは、CXは経営のイシューにはならない。そう考えるようになりました。

 突き詰めていくと根本的な原因が見えてきました。多くの企業で、CXがブランドと切り離されたまま語られていることです。

 ブランドは顧客がその企業に何を期待し、なぜ選び続けるのかを左右する無形の経営資産です。そしてCXは、そのブランドを日々の顧客接点でつくり続ける営みです。広告で掲げた約束も、店舗やウェブサイトでの体験も、問い合わせへの対応も、商品を使った後の印象も、顧客の中では一つの記憶として積み重なっていきます。

 ところが、多くの企業ではブランドとCXが別々に扱われています。その結果、CXは「サービス改善の話」に閉じ込められ、経営アジェンダの上段には上がってきません。

 この連載では、その分断に向き合います。ブランドとCXを一つのものとして捉え直したとき、CXは単なる「改善」ではなく、経営そのものの話になります。