ブランドの理解は、どう変わってきたか
ブランドとCXを別物として捉える認識はどのように生まれたのでしょうか。まずはブランドという言葉が、これまでどう理解されてきたかを簡単に経緯をたどっておきます。
1980年代、日本企業の間でCI(コーポレートアイデンティティ)ブームが起きました。ロゴを刷新し、コーポレートカラーを統一し、看板から名刺までデザインをそろえる。この時代のブランド理解は、主に「視覚的な一貫性」にありました。見た目を整え、他社との違いを際立たせることで、ブランドは機能するという理解です。
1990年代に入ると、デービッド・アーカーやケビン・レーン・ケラーらによって「ブランドエクイティ」という概念が広まります。ブランドには資産価値があり、測定し、管理し、投資すべきだ、という考え方です。経営層がブランドに真剣に向き合うようになり、ブランド価値を金額で算出しランキングを発表する動きが生まれたのも、この延長線上にあります。ブランドを経営の問題として位置付けた点で、重要な貢献でした。
しかし、一つの問いを前にすると答えに詰まります。ブランド資産はいったいどこに存在しているのでしょうか。企業の貸借対照表に載るわけではありません。倉庫に保管できるわけでもありません。
答えは一つです。顧客の頭の中にあります。
ブランドエクイティという考え方は、ケラーが「消費者の記憶内の連想」と定義したように、資産の所在が顧客の頭の中にあるという認識を持っていました。しかしその管理の主体は、あくまで企業に置かれていました。当時は、情報の発信と流通を企業がほぼ掌握していた時代です。顧客の記憶に何を書き込むかを企業側が主導できるという前提がありました。
そのため、「顧客の記憶にどう働き掛けるか」を実践する方法論は、経営の議論として十分に発展してきませんでした。
SNSがあらわにしたこと
ブランドエクイティという考え方が広まってから、30年余り。その間に、世界は大きく変わりました。
SNSの普及によって、顧客の体験は即座に可視化されるようになりました。あるブランドで不快な思いをした顧客が、その日のうちにSNSに投稿する。それが瞬く間に拡散し、何万人もの目に触れる。信頼は長い時間をかけて積み上げられ、疑念は一瞬で広がる。その非対称が、日常になりました。
この現実を前にすると、「ブランドは企業が管理できる資産である」という考え方のもろさがあらわになります。資産であれば、それは保全でき、管理できるはずです。しかしブランドは、企業の管理が及ばないところで、リアルタイムに更新され続けています。
問題はSNSそのものではありません。体験への評価は、SNSが登場する以前から、口コミとして顧客の間を流れていました。SNSはそのスピードと規模を、劇的に拡大しただけです。
つまりSNSが明らかにしたのは、ブランドがもともとそういうものだったということです。ブランドとは顧客の体験と記憶の中で、常に動き続けるプロセスです。その本質が、SNSによってはっきりと姿を現すようになりました。







