『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
児童精神科医による大ヒット書籍のコミカライズ版として、くらげバンチ(新潮社)で連載されている『ケーキの切れない非行少年たち』(原作/宮口幸治、漫画/鈴木マサカズ)。今回は、第30話『施設育ちの栗本陸』から、原作の立命館大学教授で児童精神科医の宮口幸治氏が漫画に描けなかったエピソードを紹介する。
非行少年・栗本陸(仮名)の悪循環
少年院の医務課で六麦医師の同僚である看護師・緑川(仮名)は、幼い頃に自動車事故で両親を亡くしました。
その後、緑川は、親戚の家や児童養護施設で暮らします。すぐに心を開けたわけではありませんが、施設職員に支えられながら少しずつ成長し、高校を卒業して看護師養成所へ進みました。現在、少年院で少年たちを支える側にいる緑川にも、かつては大人に支えられる子どもの時代があったのです。
要鹿之原少年院に、新しく栗本陸(仮名)が入院してきます。陸もまた、児童養護施設で育ち、さまざまな困難を抱えてきた少年でした。
少年院入院者の中には、児童養護施設で生活した経験を持つ少年も一定数います。しかし、これは、施設で育つこと自体が非行につながるという意味ではありません。その背景には、虐待や家庭環境の問題など、施設に入所する以前から抱えていたさまざまな困難が影響している可能性があるのです。
六麦医師との面接で陸は、無気力で反抗的な態度を見せます。その姿を見た緑川は、思わず強く叱ってしまいます。
幼い頃から安心できる関係を十分に経験できなかった子どもは、大人の優しさや言葉をそのまま信じることが難しい場合があります。むしろ、わざと相手を困らせたり、突き放したりして、「それでも見捨てないのか」と確かめようとすることがあります。これは、子どもなりの防衛でもあり、支援者との関係を試す行動でもあります。
しかし、そのような態度をとれば、逆に叱られたり、距離を置かれたりしやすくなります。すると子どもは、「やはり誰も助けてくれない」と感じ、さらに人を信じにくくなります。
陸の行動の背景には、こうした悪循環がありました。緑川が強く反応したのも、自分自身の過去と重なる部分があったからでした。
六麦は、家族などの後ろ盾がない少年が社会に戻ったとき、現実には誰も助けてくれないことも多いと語ります。だからこそ少年院での教育では、単に非行の反省を促すだけではなく「助けてあげたい」と思われる人になれるよう支えることが大切だと考えます。
また、物語ではさらに、少年院の外にも目が向けられます。六麦の娘が通う塾では盗撮未遂事件が起きます。問題を抱えた子どもは、少年院のような特別な場所だけにいるわけではありません。学校や塾など、私たちの身近な場所にも、支援を必要としている子どもはいます。
非行を一部の子どもだけの問題として切り離すのではなく、子どもの生きづらさや支援のあり方を社会全体で考えていく必要があるのです。
原作者である宮口幸治は、児童精神科医として、実際に医療少年院の勤務歴があります。その経験から書いた『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)をマンガ化した作品。マンガの続きは「ケーキの切れない非行少年たち」でチェック!
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社







