スタートアップが成功できるか、失敗して消えてしまうか? それを決めるのは、Product Market Fit(PMF:プロダクト・マーケット・フィット/市場で顧客に愛される製品・サービスを作ること)を達成できるかどうかにかかっている。『増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』(田所雅之著、ダイヤモンド社)は、起業家の8割が読み、5割が実践する起業本のベストセラー『起業の科学』を9年ぶりに大改訂した最新版。本連載では同書から抜粋して、スタートアップの成長を加速するポイントについて、わかりやすくお伝えしていきます。
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タイムアウト前にモデルを見つける
スタートアップのすべきことは、リーンキャンバスの一つひとつの項目について、最適な解を見つけていくことにある。それは、まさに時間との勝負になる。
『Running Lean』(オライリー・ジャパン)でアッシュ・マウリャ氏が紹介している最適解を見つける手順を要点だけ紹介しておこう。これだけで大まかな流れは、理解してもらえるだろう。
①リーンキャンバスで複数バージョンのPlan Aを作る。
②それぞれのプランで最も不確実性の高い項目は何かを理解する(課題がそもそも存在するか、カスタマーがそこにいるか、ソリューションは妥当か)。
③4段階でそのプランを検証する。
a)課題を理解する
b)解決策を定義する
c)定性的な検証をする
d)定量的な検証をする
この検証プロセスを経て、最終的にすべての項目で納得のいくリーンキャンバスが出来上がったら、それがあなたのビジネスモデルの原型になる。
ビジネスモデルの最適解を見つける上で、特に重要なのが定性的な検証と定量的な検証をファウンダー自身が行うことである。
私はあまりお勧めしないが、スタートアップによっては、プロダクト開発を外部に委託する場合もあるかもしれない。そうした場合も、Plan A の定量的検証と定性的な検証を行い、創業メンバーの学びとして言語化し、蓄積していくことは内部で行うことを死守しなければならない。
定性的、定量的な検証の結果、これまでの方向性(顧客セグメントや解決策の内容)では、PMFができる蓋然性が低いと判断した場合には、スタートアップはピボットを行うことになる。
スタートアップはリソース(時間、お金、経営陣の忍耐力など)が尽きて時間切れになる前にピボットを繰り返し、勝ち筋へとつながるビジネスモデルとプロダクトを見つけなければならない。
ピボットの重要性と留意点
エリック・リース氏は「ピボットとはビジョンを変えずに戦略を変えることである」と語っている。実際のところ、マウリャ氏によると、スタートアップの66%が当初のプランを大幅に変更しているという。
ここで改めてスタートアップの成長軌道であるJカーブを考えてみると、最適なビジネスモデルを発見して上昇カーブを描く前に資金が尽きてタイムアウトを迎えるのがスタートアップにとっての「死」である。
死んでしまう前にビジネスモデルの検証を繰り返し、場合によってはピボットをしてPMFを達成できれば上昇気流に乗れるのだ。
とはいえ、ピボットはスタートアップにとっては決してラクなことではない。ピボットを必要以上に恐れてはいけないが、舐めてかかっても痛い目に遭う。
特に、名著『リーン・スタートアップ』(日経BP)を深く読み込んでいない起業家は、深い検証もせず、十分な学びがないまま、ちょっと壁にぶつかると安易なピボットをしてしまいがちだ。
しかし、ピボットは自分たちのこれまでの蓄積を否定する行為なので、当然、不満を持つ人もいる。私もかつてこれで苦い経験をしている。シリコンバレーでスタートアップを運営していたとき、2回目のピボットをした際に不満を持ったエンジニアがチームを去ってしまったのだ。
当時の私はリーン・スタートアップやリーンキャンバスを知らなかったので、アイデアをメンバー全員で共有して、あらゆることを検証ベースで高速に行うという手法も知らなかった。
もしあのとき、せめてリーンキャンバスなどを使ってアイデアを共有できていたら状況は変わっていたかもしれない。
ビジネスモデルの見える化をして、PMFに向かうためのメトリクス(指標)を設計していたら、ピボットの理由がより明快になってエンジニアもチームを離れなかったかもしれない。
初期のスタートアップは通常3~10人の小さなチームで構成される。人数が少ないからミスコミュニケーションは起きないという過信はやめたほうがよい。小さなチームであっても、それぞれの経験やポジションによって、前提条件や思考方法が異なるからだ。
スタートアップは初期の段階であるほど、リーンキャンバスのような思考を可視化するツールを使って、「ああでもない、こうでもない」と毎日議論をして、みんなが納得する形でビジネスモデルを作っていくことが重要だ(図表1-4-6)。
メンバーは納得しているか?
ピボットは、スタートアップ全体の方向転換に当たる非常にインパクトのある行動である。なおさら、創業メンバーの対話による納得感の醸成が欠かせない。
チームメンバーの納得が得られないままピボットをすれば、組織崩壊のきっかけにもなりかねない。ピボットは開発中止ではなく軌道修正と理解され、スタートアップはそれを“お気軽”に実行することがある。
しかし、ピボットはスタートアップにとって瀕死の経験(nearly death experience)である。時間もお金もないスタートアップが自分たちの積み上げたものを捨てることになるので、一歩間違えればそのまま死んでしまうのと紙一重のところに身を置くからだ。
だからこそピボットをするときは、メンバー全員の力で乗り切る必要がある。
そのためにもリーンキャンバスなどを通じて議論を繰り返し、各自がピボットの判断に納得感とオーナーシップを持てるかどうかが大事になる。
(本稿は『増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動した。
日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップ約1500社の評価を行ってきた。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。
2017年、新たにスタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。その経験を生かして作成したスライド集『スタートアップサイエンス2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』『「起業参謀」の戦略書』(ダイヤモンド社)など。





