「見たかったら見ていいよ」非行少年が陥った〈重大な誤解〉【マンガ】『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社

児童精神科医による大ヒット書籍のコミカライズ版として、くらげバンチ(新潮社)で連載されている『ケーキの切れない非行少年たち』(原作/宮口幸治、漫画/鈴木マサカズ)。今回は、第31話『猥褻(わいせつ)』から、原作の立命館大学教授で児童精神科医の宮口幸治氏が漫画に描けなかったエピソードを紹介する。

「性の問題行動」で少年院送致となる少年は少なくない

 栗本陸(仮名)は、幼い頃から児童養護施設で生活してきました。しかし、暴力行為などを繰り返したため、周囲の子どもたちも次第に陸を怖がるようになり、施設も対応に苦慮します。

 近年の調査では、児童養護施設に入所している子どもの約7割に被虐待経験があるとされています。

 そのため、不安や怒りをうまく言葉にできず、暴言や暴力、対人トラブル、不登校、愛着の問題などの形で、それまでの苦しさが表れることもあります。

 それでも施設長は、陸を「ここで育った、うちの子ども」として受け止めようとします。もちろん、暴力や問題行動については、必要な指導や環境調整を行っていきます。問題を起こしたからといって、その子どもを見捨てるわけにはいきません。施設長の姿勢は、陸に「失敗しても、やり直すために支えてくれる大人がいる」という大切な経験を与えるものだったのです。

 その後、陸には軽度の知的障害があることが分かります。知的障害があることと暴力は直接結びつきませんが、相手の気持ちを想像すること、感情を抑えること、先の結果を考えて行動することなどが難しい場合があります。

 そのような子どもには、叱責だけではなく、分かりやすい説明や具体的な練習、環境面での配慮が必要になります。

 陸の場合は、児童養護施設で生活を続けることが難しくなり、一時的に、より処遇困難な子たちが生活する児童自立支援施設へ移ることになりました。

 それでも元の施設長は、陸に「待っている」と伝え続けます。その言葉を受け取った陸は、少しずつ大人を信頼できるようになり、生活も落ち着いていきました。そして高校進学を機に、再び元の児童養護施設へ戻ることになります。

 しかし思春期になると、陸は異性への関心という新たな問題に直面します。

 恋愛感情や性的な関心を持つこと自体は、自然なことです。しかし、相手が本当に同意しているか、嫌がってはいないか、その場の表情や言葉から確かめることには、一定の対人理解力が求められます。

 陸の場合は、相手が迷っている、黙っている、困っているといったサインを十分に読み取れず、相手の意思を正確に理解できていなかった可能性があります。その結果、相手の同意がないまま性的な行為に及び、被害届が出され、少年院に入所することになってしまったのです。

 性の問題行動によって少年院送致となる少年は少なくありません。少年は「相手も同意していた」と感じても、実際には一方的な思い込みである場合があります。

 特に、知的障害のある少年の場合、本人の理解の仕方や特性に合わせ、一般的な性教育に加えて、より分かりやすい方法で学ぶ機会が必要になることがあります。 もちろん、知的障害があること自体が性加害につながるわけではありませんが、相手との距離の取り方、身体に触れる前の確認、断られたときの受け止め方などを、具体的に学ぶ機会をつくることも 、性問題行動の予防に必要なのです。

 原作者である宮口幸治は、児童精神科医として、実際に医療少年院の勤務歴があります。その経験から書いた『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)をマンガ化した作品。マンガの続きは「ケーキの切れない非行少年たち」でチェック!

『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社