4つの首が並んだ絵にゾッとした→非行少年が描いた「意外なもの」に衝撃『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社

児童精神科医による大ヒット書籍のコミカライズ版として、くらげバンチ(新潮社)で連載されている(原作/宮口幸治、漫画/鈴木マサカズ)。今回は、第15話『家族』から、原作の立命館大学教授で児童精神科医の宮口幸治氏が漫画に描けなかったエピソードを紹介する。

首が4つ並んだ絵は、少年が描いた意外なものだった

 放火によって隣人を焼死させてしまった少年・荒井路彦(仮名)のエピソードの続きです。

 物語は、放火によって逃げ遅れた高齢女性の葬儀の場面から始まります。放火を行った路彦は刑事処分ではなく保護処分となりました。被害者の遺族は、「人を殺しておいて保護処分って…」と、強い憤りを覚えます。

 刑事処分とは、成人事件と同様に犯罪に対して刑罰を科す制度であり、前科がつきます。殺人や放火、強盗致死といった重大事件では、少年であっても刑事処分となることは十分に考えられます。

 なお、刑事処分として刑事裁判を受け、有罪かつ実刑となった場合、原則として少年は少年刑務所に送致されます。しかし路彦の場合は、将来の更生可能性が重視され、前科のつかない保護処分として少年院送致になりました。その判断に、遺族は到底納得できなかったのでしょう。

 一方、放火による被害弁償のため、休むことなく働き続ける路彦の父もまた、少年院での面会のたびに、息子とどう向き合えばよいのか悩み続けていました。

 路彦が少年院で描いた家族画を見ると、食卓を挟んで向かい合う父との距離が不自然なほど離れており、親子関係の隔たりが象徴的に表れていました。少年院では、さまざまな課題を通して少年たちの内面を把握しますが、その1つに、特定のテーマを設けて絵を描かせる課題があります。マンガでは、この「家族画」を取り上げました。

 ここで私が少年院に勤務し始めた頃の体験を紹介しましょう。

 ある少年は、画用紙いっぱいに、目と口を大きく開いた首を4つ並べ、その周囲に波線を引いただけの絵を描いてきました。まるで刑場のように生首が野原にさらされているように見え、正直なところ強い衝撃を受けました。

 少年院には、想像を超えるほど過酷な家庭環境を経験してきた少年が少なくないことを知っていたため、この少年は一家惨殺事件の被害者の生き残りなのではないかと、一瞬考えたほどです。その絵は、コミックの中でも情景を似せて再現しています。

 しかし不思議だったのは、他の教官たちがその絵を見ても、特に動揺した様子を見せなかったことでした。こうした表現にも慣れているのだろうかと思いましたが、真相は違いました。

 その後、教官が画用紙の下に「これは何の絵か」を書くよう指示すると、その少年は「家族で温泉に行ったとき」と記したのです。確かにそう言われれば、見えなくもありません。お湯に浸かって顔を出していただけだったのです。それでも、これがいわゆる「ケーキの切れない非行少年たち」の表現力なのかと、驚いたことを覚えています。

 原作者である宮口幸治は、児童精神科医として、実際に医療少年院の勤務歴があります。その経験から書いた『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)をマンガ化した作品。マンガの続きは「ケーキの切れない非行少年たち」でチェック!

『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社