AIがホワイトカラーを駆逐し、配管工や電気技師こそが次の勝者だという奇妙な合唱が起きているAIがホワイトカラーを駆逐し、配管工や電気技師こそが次の勝者だという奇妙な合唱が起きている Photo:NurPhoto/gettyimages

AIがホワイトカラーを駆逐する?
見落とされる現実の社会移動

  AIがホワイトカラーを駆逐し、配管工や電気技師こそが次の勝者だという奇妙な合唱が起きている。フォーブス誌は、エレベーター技術者の年収(中央値)を約1640万円と報じた。

 この議論は日本にも届いている。とび職で年収2000万円を目指す事例が紹介され、整備工が事務職の賃金を上回るとも語られる。技能職の価値が高まる事実は本物だ。

 だが私は、その語られ方に違和感を覚える。

 象徴的なのは、エヌビディアのジェンスン・フアン氏である。彼はダボス会議で「AIブームが、配管工や電気技師に(米ドルで)6桁(日本円換算で2000万円程度)の年収をもたらす」と述べた。これはAIインフラ建設に伴う労働力不足への警鐘であり、その指摘自体は妥当だ。

 ただし、配管工などの技能職の年収が増えると語る本人が現場に転じるわけではない。彼は最上位のホワイトカラーに位置したまま、他者に転身の利を説く。これは多くのブルーカラー(技能職)礼賛者に共通する立ち位置である。技能職の賃金上昇は、彼らにとっては「データ」だが、転職する当事者には人生の選択そのものだ。この距離が、議論を空疎にする。

 加えて、階層の再生産という事実がある。親の文化資本と人脈が子の進路を強く規定することは、教育社会学が一貫して示してきた。「技能職が有利」と説く論者ほど、自らの子にはその経路に乗せない。賃金シグナルだけで階層が移動するという前提は、現実の社会移動を見落としている。