エネルギー動乱Photo:PIXTA

爆発的なAIブームの到来は、半導体市場だけでなく電力インフラ業界へも株価の急騰という形ではっきりとした影響を与えている。かつてのITバブルとも重なる点もありながら、当時にはなかったリスクも併せ持つ。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、狂乱に沸くAIブームの中で電力業界を待ち受ける分岐点を予測する。(アクセンチュア素材・エネルギー本部マネジング・ディレクター 巽 直樹)

AIの熱狂から派生した電力インフラブーム
バブルか本物か

 AIの熱狂は、半導体から電力インフラへと舞台を移しつつある。米送電網建設大手クアンタ・サービシズをはじめ、米イートン、米バーティブ、仏シュナイダーエレクトリック、独シーメンスエナジー、米GEベルノバ、米キャタピラーといった電力工事・配電・電源・タービン関連の銘柄が、世界の株式市場において軒並み高マルチプル(評価倍率)で取引されている。

 中でもシーメンスエナジーは過去2年で株価が約10倍、GEベルノバは過去1年で200%超も上昇した。AIインフラを物理面で支える電力関連業界そのものが、世界規模で投資ブームの中心地に押し上げられている。

 これらの企業は、労働集約的かつ物理的なビジネスを本業としている。送電線、変電所、配電設備、ガスタービン、電源設備、冷却装置を実際に建設・保守する事業であり、複製コストが極小のソフトウエアと違って容易にはスケールしない。にもかかわらず、クアンタ・サービシズの実績(TTM:過去12カ月)ベースのPER(株価収益率)は100倍前後、バーティブも80倍前後と、ソフトウエア企業並みのマルチプルに達している。本来の産業の付加価値構造から見れば、明快な説明が難しい水準である。

 これらは、いわば「派生バブル」である。AIブームが本体であり、電力ブームはその派生だ。しかし、派生だからこそ、普通のバブルにはない奇妙さがある。本体の真贋が事後的にしか判明できないにもかかわらず、派生はすでに物理インフラの建設計画として固定化されつつあり、設備企業は受注台帳を膨らませている。

 前回(2026年4月10日配信『電力を食い尽くし人間の仕事を奪う…大転換する「AI・エネルギー供給者・ホワイトカラー」3者の“支配関係”を専門家が徹底解説』参照)では、ホワイトカラー、AI、エネルギー供給者の関係を「右にあるものほど左を支配する制約条件」として整理したが、今回の論点は異なる。

 問題は、このAIバブルから派生した電力ブームが本物なのか、それとも事後に気付くバブルなのかという点だ。これを事前に判定したり、バブル崩壊のタイミングを読んだりすることは不可能に近い。世界中のエネルギー業界は長いリードタイムを抱えた投資判断を迫られるため、こうした熱狂は先行きの見通しを不透明にする。

 次ページでは、この派生バブルの実像を検証した上で、何を見極めるべきかを考える。