「あ、あの、これ、小津安二郎って書いてあるんだけど」

「あぁ、それ、小津さんからもらったんよ」

 いや、芋食ってる場合じゃないっしょ。いや、芋食ってもいいんだけどさ。

「小津さんて、東京物語、とか、秋刀魚の味、とか、お早よう、の小津安二郎監督なの?」

「そ」

「し、知り合い、なの?」

「そ」

 息を整えながら、静かに取り調べをする刑事さんのように僕は言います。

「あなた、会ったことがあるのですか?」

「そ」

「と、友だちだったのですか?」

「そ」

老いた母がさらりと明かした
小津安二郎との交流

 うん、分かった。小津安二郎監督との関係を全て話してみなさい、楽になるから。気分はほとんど、捜査一課長の取り調べ。

 母は、焼き芋の皮をむきながら、静かに話し始めた。

「小津さんは、宝塚の、私の大ファンで、特に『華麗なる千拍子」には何度も来てくれてね。終演後には、いっつも楽屋でお酒を飲みながら話をして。何の話?忘れたわ、昔のことやし(僕「なんでだよ!」)。

 あ、小津さんとは、日本酒の一升瓶に何本も繋ぎ合わせて長くしたストローをさして、替わりばんこにお酒をちゅうちゅう飲んだわ。あんな優しい人はおらんかったよ。本当に優しい人やった。

 え?どんな風に優しかったかって?まぁ、言葉にはでけへんねえ(僕「なんでだよ!!」)。ああ、そうそう、次の映画、私を主演で撮りたい言うてたんだけど、その前に亡くなってね、それは実現せえへんかったけど」

 母はここまで言うと、ちょっと真面目な顔をして、最後に小津監督とのこんなエピソードを明かした。

「あれは、いつやったかな、小津さんから電話があって、いきなり小津さん、電話口で歌い出したんよ。〈悲しい時に明るい歌を、涙の頬に笑顔の歌を〉って。宝塚の『華麗なる千拍子』の「幸福を売る人」いう歌。でもね、そこまで歌うと小津さん、黙ってしまって。私が、どないしたん?て言うたら、小津さん『母ちゃん、死んだ』て言うて」

 そう言って母は2階に行き、あ、これやこれや、と懐かしそうに小津安二郎監督と2人でくつろぐ写真を取ってきて見せてくれた。

……いたよ、小津が(呼び捨て)。母と2人で料亭の個室みたいなところでくつろぐ小津が。楽しそうに笑ってさ。