数日後、シーズン終盤で試合の行方が手に負えなくなったときに、監督はアンキールがシーズンを良い形で終えられるようにと、もう一度チャンスを与えた。彼は再び投球で苦しんだ。それは彼にとって終わりの始まりだった。

 アンキールは自分が全くストライクゾーンに投げられないという悪夢を見て真夜中に目を覚ますようになっていた。次のシーズンの最初の登板前には、激しい不安を紛らわそうとしてウォッカを飲んだ。彼はすぐにマイナーリーグに降格となり、そこで4年間頑張った。その後メジャーリーグに何とか再昇格したものの、例の症状がすぐに再発した。もうこれ以上は耐えられないと判断した彼は、引退を決意した。

引退寸前まで追い込まれたが
外野手として復活を果たす

 だがアンキールの代理人の説得で、彼はポジションを変えて野手としてやり直すことになった。

 驚くべきことに、彼は新しいポジションでメジャーリーグに復帰した。制球能力は完璧で、レーザー光線並みの速さと正確さで300フィート(約91メートル)の送球をした。メジャーリーグ史上でアンキールは(ベーブ・ルースを除けば)通算75本以上のホームランと200奪三振を達成した唯一の選手だ(訳注:原書刊行の2020年時点)。

 アンキールは、自分の運命を変えたあのプレーオフの試合で、1回の暴投が怪物のように自分を苦しめるようになったことをどのように感じていたかを語っている。

《私は、チームの仲間、コーチ、ファンの人々、家族、カージナルスという球団、そして共に成長してきたすべての人たちを失望させたという思いに、ただただ押しつぶされていた。

 かつての自分みたいな投手になれないことに、心の底から動揺していた。私は、野球が上手であることが自分という人間を形作っているという間違った考え方をしていた。ガラスが割れたら、そこには何も残っていなかった。全く予期しなかった出来事で、みんなに自分を見透かされているようだった。

 私は大型犬に噛みつかれたことは一度もないが、もしあなたにそういう経験があるなら、犬を撫でようと手を伸ばすたびに、「こいつに噛まれるかも」という感情がきっと湧くに違いない。球場のマウンド上での私はそういう風に感じた。プレッシャーが巨人のような重みで両肩にのしかかっていた。孤独で、絶望を感じていた。誰にもあんな思いはしてほしくない。》