ビジネスの世界では「話し方」一つで大成功を手にすることもあれば、大損失を被ることもあります。ただし、口がうまいからと言って仕事ができるわけではなく、むしろ口下手の方が結果を出すケースも少なくありません。ビジネスで求められる実践的「話し方」とは?この特集ではあなたの「話し方」を劇的にアップデートする書籍を厳選しました。今回は『人前であがらない37の話し方』から、人前であがらず話せる人に共通する「完璧を目指さない」“逆張り”会話テクニックをお届けします。(ダイヤモンド社デジタル編成部副部長 大堀達也)
年齢・役職とともに増える“話す機会”
どうしたらあがらずに話せるか?
社内のミーティング、取引先に対する商品・サービスのプレゼンテーション、対外的な広報活動におけるスピーチなど、ビジネスパーソンにとって“人前で話をする”ことは日常的に大事な仕事の一つです。
会社員であれば年齢とともに役職が上がっていくほど、人前で話す機会は増えていきます。業務を進めるため否応なしに大勢の前で話さなければならい場面もしばしばあります。改まった場では必要以上に緊張してしまう、いわゆる「あがり症」の人にとっては試練です。
「書くのが仕事」の記者や編集者も例外ではありません。インターネットが普及して以降は、「クロスメディア」といって、従来の紙媒体で執筆するだけでなく、ユーチューブなどの動画サイトやポッドキャストといった音声メディアで番組をつくり、自ら出演して取材成果を発信する形態が急激に増えています。パソコンやスマートフォンを通して、何千・何万人という視聴者に向けて話すという新たな仕事が生まれているのです。
経済記者として動画番組に約10年、音声番組に約4年携わった私の経験から言えば、やはり初めのうちは緊張のせいで、うまく話せませんでした。いくら“カメラ越し” 、“マイク越し”とはいえ大勢の人々に向かって話していると思うと、どうしてもあがってしまっていました。
トークの巧拙はともかく私が番組中にリラックスして話せるようになったのは、相当の場数を踏んだ後でした。収録現場で一緒になった司会進行役のプロのアナウンサーや先輩ジャーナリストから、“人前であがらずに話すコツ”を少しずつ学んでいったのです。
ここでいう“コツ”とは、緊張せずに話すための“方法論(メソッド)”です。私の場合、収録中にベテランのスキルを盗んで体得しましたが、もし、そうしたメソッドを最初から丁寧に教えてくれる人がいたら、もっと早く人前で話すことに慣れていたはずです。
“話すこと”は一種のゲームか競技
現場で「勝つための法則」を培う
会社員であれば絶対に知っておきたい“話し方のメソッド”をまとめたお役立ち参考書が、『人前であがらない37の話し方』です。著者の佐藤達郎氏は、国際的な広告賞の審査委員を務めた経験を持つ実力派コピーライター。業界では“話し上手”として知られる人物です。
商談でライバル企業に連戦連勝していたという佐藤氏ですが、駆け出しの頃は意外にも「緊張しぃの口べた」だったそうです。それが40歳に差しかかる頃には「連勝男」と呼ばれるまでの話し上手に変貌を遂げたといいます。
生まれ変わるために佐藤氏が心がけたのは、「話すことを一種のゲームか競技ととらえ、オリジナルの法則やテクニックを培うこと」。自身の経験から見出した37ものメソッドは、私も思い当たるものばかりでした。そのうち幾つかを紹介します。
・原稿の暗記をやめる
・すべて説明しない
・練習通りにやらない
・よく見られたいという気持ちに、オサラバ
・必要なデータは数字で把握する
・8割伝わればいい、と開き直る
面白いのは、私たちが“うまく話すための鉄則”と思いがちな、「原稿を暗記しよう」「説明し尽そう」「練習通りにやろう」……といったスタンスを、すっぱりと否定していることです。
これは本書の第1章のタイトル「話すのが苦手だから完璧を目指さない」が示しているように、逆転の発想による“逆張り”テクニックと言えるのではないでしょうか。実際、これらのメソッドは、私が話し方を学んだ先達たちに共通するものでした。
本書では37の重要メソッドについて詳しく解説しています。例えば、暗記をやめた方がいい理由については、(1)完璧な暗記はそもそも難しい、(2)つまずくと全体に影響が出てしまう、(3)想定外の事態に弱い、(4)思い出すことに一生懸命になりがち――といった具合です。
『人前であがらない37の話し方』の本文では、「人前で話すのが怖くなくなる10の技法」や「本番で成功するためにやっておくべき12のこと」など、話し方の鉄則を大開陳します。
はじめに/目次/序章 口べたガチ男が選んだ職業は「コピーライター」
第1章 負のスパイラルから抜けるために最初にしたこと
第2章 緊張して話せない自分にサヨウナラ
第3章 攻め方さえ覚えれば気軽にできる
Key Visual:SHIKI DESIGN OFFICE