人間の防衛本能が
体を萎縮させてしまう

 ここで潜在意識のはたらきの仕組みを明らかにしたい。まずはサックスの例に戻り、彼のメンタルブロック(訳注:自分の行動を妨げる否定的な思い込みや固定観念)がどうやって始まったのかを順を追って見ていこう。

1 エラーをする。
2 気分が落ち込む。
3 自分のスタッツを見て未来のことを考え、この調子が続くとしたらどれだけ嫌な思いをするだろうと思う。
4 さらにエラーを重ねる。
5 エラーに執着し始めて頭から離れなくなる(固定観念になる)。
6 キャリアを終わらせかねないような、大きなメンタルブロックを発症する。

 まず最初に知っておきたいのは、潜在意識はあらゆる危険を脳内の同じファイルにしまいこんでいるということだ。身体的危険も精神的危険も一緒だ。虎に襲われかけている恐怖も、レディット(訳注:アメリカ発の巨大掲示板型SNS)やインスタグラムで攻撃される恐怖も区別されない。脳にとっては全部同じだ。

 人生の中で特に若い頃に、トラウマになるような、あるいは恥ずかしい経験があると、潜在意識はそのときの記憶を固定して、将来の自分に警告できるようにする。

 記憶を固定するとは、どういう状況だったか――誰がいたか、何を言われたかなど、その経験に関連することなら何でも――を記憶して、次回似たような状況に直面したら警告できるようにすることだ。潜在意識による警告は、恐怖や不安、あるいは単に、何かしら辛い経験に結びついていることを自分にさせないようにするという形を取る。

恐怖心を克服するには
潜在意識を上書きすればいい

 潜在意識は良いことからあなたを守りたいわけではない。辛いことから守りたいだけだ。だから潜在意識があなたを守るために目を光らせることができるよう、辛い出来事が魂に刻まれる。

 潜在意識は常に私たちを守るために機能しており、メンタルブロックやいわゆるイップスを発症するときは、潜在意識が完璧に機能していることを意味する。

『世界のハイパフォーマーが学んだ「最高の自分」』書影世界のハイパフォーマーが学んだ「最高の自分」』(ジム・マーフィー著、鶴見紀子訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 また、潜在意識は自分が得た知識にきっちり基づいて機能することも分かっている。一塁に球を投げるのは真に危険だとサックスの潜在意識が思い込んでいたのは、サックスを守るためだった。メジャーリーグの試合で投手として球を投げるのは正真正銘危険であるとアンキールの潜在意識が思い込んでいたのも、アンキールを守るためだった。

 2人とも、潜在意識が危険だと判断した行動について考えたり、実行しようとしたりするたびに、潜在意識のはたらきで実行を妨げられたのだ。

 では、この問題を解決するにはどうしたらいいだろう?潜在意識に真実を伝えて潜在意識の更新(訳注:潜在意識に思い込みを捨てさせること)を行い、置かれている状況についての新しい信念を持たせればいいのだ。

 サックスにとって、真実とは一塁に球を投げるのは危険なことではなく、見張りも守りも必要なかったということだろうし、アンキールにとって、真実とはメジャーリーグでの投球は彼が保護を必要とするほど危険なものではなかったということだろう。