「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営や組織の悩みについて坂田氏に話を聞きながら、同書の考え方を現在進行形の課題へと結びつけていく

頭のいい人はAIに「正解」を求めない。では、勝てる人の“すごい使い方”とは?Photo: Adobe Stock

AIを使っているのに、なぜ変われないのか

――生成AIの導入は急速に進んでいますが、日本企業のAI活用は、いまどんな状況にあるのでしょうか?

 数字だけ見れば、順調に見えます。帝国データバンクの2026年3月の調査では、生成AIを業務で活用している企業は34.5%に達し、活用企業の86.7%が「業務への効果が出ている」と答えています。導入は着実に進んでいます。

 しかし、中身を見ると景色は変わります。

 最も多い活用業務は「文章の作成・要約・校正」で45.1%。次いで情報収集やアイデア出しとなっています。つまりAIは、業務判断そのものではなく、その手前にある補助作業に使われているのが実態です。

 PwCによる2026年の6カ国比較調査でも、日本企業の活用は既存業務の効率化や個別タスク支援が中心で、「便利ツール利用の域を出ない」と指摘されています。

 また、期待以上の効果が出ていると答えた企業の割合も64%で頭打ちになっています。

 要するに、「使ってはいるが、変われない」。これが2026年時点の日本企業の現在地です。

――なぜ、多くの企業で効率化止まりになってしまうのでしょうか?

 私は、その根本原因は、AIを「正解製造機」として使っているからではないかと考えています。議事録の正解、報告書の正解、メール文面の正解。つまり、過去に正解とされてきたものを、より速く、より正確に再現することをAIに求める使い方です。

 帝国データバンクの調査には、企業の率直な声も紹介されています。

誤った情報を正解と捉えてしまい、トラブルになった
依存度が高くなり、人が思考しなくなるのが心配

 実は、この二つは同じ構造から生まれています。AIに正解を出させる。そして、その答えを鵜呑みにする。鵜呑みにするから、自分で考えなくなるのです。

 そもそも生成AIの出力とは、膨大な過去データから導かれる、いわば「もっともらしさの平均値」です。それを正解として受け取る限り、過去の再生産から抜け出すことはできません。効率は上がりますが、新しい価値が生まれないのです。効率化止まりになるのは、ある意味で必然なのです。

「正解探し」が通用しない時代

――「過去の正解探し」が、今の時代、通用しなくなったということでしょうか?

 その通りです。正解探しが機能したのは、ビジネス環境が安定していた時代の話です。市場動向が予測可能で、成功パターンが再現可能だった時代には、他社のベストプラクティスという「正解」を、誰よりも速く、誰よりも正確に模倣することが合理的な戦略でした。

 しかし、地政学の変動や技術の断層的な変化によって、いまや前提そのものが数年単位で崩れます。昨日の正解が今日の不正解になる世界では、正解探しそのものが戦略になりえません

 さらにAIは、この状況を一段と加速させます。全員が同じAIを使って正解を探せば、全員が同じ答えへ最速でたどり着くことができます。だからこそ、正解を探すだけでは差別化はますます難しくなるのです。

――では、AIを本当に使いこなせる人は、何が違うのでしょうか?

 共通するのは、AIに答えを出させるのではなく、自分の判断の質を高める材料を引き出していることです。代表的な使い方は三つあります。

 第一に、前提を疑わせる使い方です。

「この戦略の正解を教えて」ではなく、「私はこう考えている。この仮説が崩れるとしたら、どんなシナリオが考えられるか」と問いかける。AIは、自分では気づけない盲点や反証を提示する壁打ち相手として、極めて優秀です。

 第二に、選択肢の幅を広げる使い方です。

 一つの正解を求めるのではなく、あえて10案、20案と出させます。そして、その大半を自分の判断で捨てる。ここで重要なのは、捨てる行為そのものです。何を残し、何を捨てるか、その選択を繰り返すことで、自分自身の判断基準が磨かれていきます。AIから答えを受け取るのではなく、数多くの選択肢の中から自ら選び取る。この違いは決定的です。

 第三に、ステークホルダーの視点をシミュレートする使い方です。

 相手国の政府、競合企業の経営者、現地の顧客など、それぞれの立場になりきらせ、自社の提案がどう見えるかを疑似体験するのです。私自身も東南アジアの案件では、この使い方を数多く実践してきました。多様な利害関係者が存在する状況では、解像度を高めるうえで、これほど有効な道具はありません。

AI時代に残る、人間だけの仕事

――なるほど。では、AIが進化するほど、人間の役割はどう変わっていくのでしょうか?

 私は意思決定のプロセスを「フレーミング」「インプット」「プロセス」「アウトプット」「判断」という五つの段階で捉えています。そのうち、AIが代替するのは真ん中の三つ、つまり情報を集め、処理し、成果物へ仕上げる部分です。ここは今後、極めて速い速度でコモディティ化していくでしょう。

 そして、人間の価値は両端、すなわち「何を問うか」を決めるフレーミングと、「何を選び、何を捨てるか」の判断に集中していくことになります。

 これは、一言でいえば、戦略をデザインする仕事です。どの問いを立てるか。集まった材料から何を選び、何を捨てるか。そして関係者が納得して動き出す構図をどう描くか。

 これらは正解のない仕事であり、だからこそAIには代替できず、だからこそ価値が残ります。

――これからの時代、いかにスキルアップするべきか悩むビジネスパーソンへ、アドバイスをお願いします。

 いま多くの企業がAIスキル研修に投資しています。しかし、操作方法は数ヵ月もすれば陳腐化します。本当に投資すべきは、「問いを立てる力」の訓練です。目の前の課題を疑い、別の角度から定義し直す力。この力は、AIが進化すればするほど希少になっていくでしょう。

 私は、AIの登場は「正解探し競争」の終焉を告げるものだと考えています。なぜなら、全員が瞬時に正解へたどり着ける時代には、正解そのものの価値は限りなくゼロに近づきます。AIを効率化ツールとして使うだけでは、これからの勝ち筋は見えてきません。

 これから価値を持つのは、誰も見たことのない最適解をデザインできる人と組織です。AIは、そのための最強の相棒にはなります。しかし、主役の座を代わってくれることはありません。

 主役であり続けるために鍛えるべきは、「問いを立てる力」と「判断する力」になります。

――ありがとうございました。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。