沖縄北部のテーマパーク「ジャングリア沖縄」のオープンから1年が過ぎようとしているた。
オープンまでの苦難に満ちた道程は、森岡毅氏の著書『心に折れない刀を持て ジャングリア沖縄、誕生までの挫折と成長の物語』(ダイヤモンド社)に詳しく書かれているが、オープン後も苦難の道はさらに続いた。
ジャングリアの生みの親である株式会社 刀は、ジャングリア以外にも様々な事業に取り組んでいる。それらの取り組みは、順調に進んでいるのだろうか?
株式会社 刀CEOの森岡毅氏に話を聞いた。(取材・亀井史夫/ダイヤモンド社)

刀のコンサル事業は絶好調。痛い思いはしているが、心配いただくほどではありません。森岡毅インタビュー(後編)撮影・小島真也

刀のコンサル事業は絶好調

――「ジャングリア沖縄」以外の刀の事業の状況はいかがでしょうか?

「おかげさまで総じて好調です。特に「マーケティング支援事業(コンサル事業)」の成果が顕著です。自社でリスクを取れる自社事業と異なり、クライアント様の経営資源で勝負する「マーケティング支援事業」においては、できるだけリスクの少ない手堅い手法を駆使して、高確率で結果を出させていただいています。

 最近の事例では、3年間を完走させていただいたニップン様は、「オーマイプレミアム」のマスターブランド戦略の下で「もちっとおいしいスパゲッティ」を大ヒットさせました。協業満了後の26年期は増収増益で、「もちっとおいしいスパゲッティ」はこの好業績を支える一つなっているそうです。3年間の協業を終えて、前鶴社長が「刀はビジネス結果だけではなく、マーケティングができる組織と人を創ってくれた」と仰ってくださった。それが刀にとって何よりもありがたいお言葉でした。これこそが刀を創業した意義であり、冥利に尽きます。

 最初は刀がアイデアをリードしていきましたが、最終的にはニップンの社員さんが考えて、彼らの力で作ったものがヒットし始めた。3年間でそこまでたどり着けた。これは大変ありがたいことです」

刀のコンサル事業は絶好調。痛い思いはしているが、心配いただくほどではありません。森岡毅インタビュー(後編)ニップンと刀の協業により生まれた大ヒット商品「もちっとおいしいスパゲッティ」

――刀がマーケティング支援で参画しているハウステンボスの集客も好調のようですね。昨年対比で130%という高い伸長を続けていると聞きました。この春に「エヴァンゲリオン」の新ライドがオープンし、夏には「イマーシブ・フォート東京」で人気だった「今際の国のアリス」も導入されるそうですね。さらにハウステンボスでは初となるジェットコースターの来春導入を目指した計画も発表されました。

「おかげさまで絶好調です。ハウステンボスさんと刀で一丸となって取り組んできた結果です。今後も、どんどんアトラクションを増やし、もっとゲストに喜んでもらえる『憧れの異世界』の実現を目指します」

「刀実戦ブートキャンプ プレミアム」がスタート

「さらに、この夏から新たな企業支援サービスとして「刀実戦ブートキャンプ プレミアム」を提供できる運びとなりました。この新サービスは、数カ月間にわたり、各企業様が抱える重要な経営課題を題材に、何十人もの社員様を対象にして、刀から強力なマーケティングトレーニングを提供するものです。企業の内側のこれまでの経験と、新しいマーケティングという外部知見による化学反応によって生まれる「ブレイクスルー」を期間中に生み出しながら、マーケティング人材を育成していくプログラムです。

 マーケティングで日本を元気にするという社是を掲げながら、これまでの我々のリソースでは、フルスペックでのマーケティング支援(3~5年かけて刀が解決策をリードしながらマーケティングノウハウも移管する)しか行えてきませんでした。それは刀を雇う費用が何億円もの規模になるので、どうしても一部の大企業に限られる傾向がありました。しかし、この新サービス「刀実戦ブートキャンプ プレミアム」は、約数カ月間から半年弱というもっと手の届きやすい期間と費用で、もっと多くの企業様がマーケティングノウハウを数十人規模でインストールできるようになります。

 私がやりたくなかったのは、需要予測だけ売るとか、コンセプトだけ作るとか、ノウハウの部分売りみたいなことです。でもこの新たなプログラムは、マーケティングを身に付けるためのトレーニングの題材にその企業が一番課題にしていることを使い、新しいアイデアを消費者起点で生み出します。例えばお題が決まったら約半年間で、マーケティングフレームワーク、消費者理解、調査などを刀と一緒に学びながら、その課題に対しての答えを受講者に考えさせるメソッドです。刀はトレーニングをして、ファシリテートして、ナビゲートして、アドバイスをするという立場になります。

 すでに企業様からお問い合わせを多数いただいています。部門単位でインストールするので、数十人単位に対して、マーケティングを共通言語として入れることができるんですよ。実は企業のなかで、一部の人だけが新たにマーケティングを勉強してきても、その上司や同僚が理解できないと、結局、マーケティングは組織で上手く機能しないんですよね。でも、これだと一緒に考えて一緒にやって、最後にみんなで考えた案まで出来てくるんだから、情熱もコミットメントも出来ている。めちゃくちゃ成功確率が高いアイデアが出せると私は思っています。

 実はこの「刀実戦ブートキャンプ プレミアム」を、地域創生のために先行して行った自治体があります。隠岐諸島の海士(あま)町をご存じでしょうか。島根県北部の隠岐ジオパークの一部で、人口2300人の町ですが、人口減少に直面するなかで「島の経営を島外の人も含めて行う」という先進的な方針のもと、「島留学」という制度をいち早く導入された自治体です。

 彼らは自分たちで事業を経営できる観光人材育成を行っており、その文脈で刀にお声かけいただきました。海士町さんには地元の方だけでなく、UターンとかIターンとか、地域を愛して後世に受け継ぎたいという情熱を燃やす方がたくさんいて、そういう皆様を対象に、このプログラムを展開しました。私も受講者の皆様にお会いしましたが、非常に熱量の高い方々です。自分のやろうとしてることを成功させるためにマーケティングを自分の文脈で咀嚼して、刀からフィードバックをもらって、反映して新たな方向性を見出し、成果に向かって走り出されています。この6月で第1クールを終え、本プログラムを通じて、海士町の未来のブランドをどう作るか、その中で事業をどう発展させるか、情熱を共有できる一つのチームになれたことが大きな成果だった、と評価をいただいております。最後の打ち上げは、もう涙涙だったと聞いています。今後も、地域における観光事業がより強くなっていくために継続して伴走していきたいと思っています。

資金繰りは問題ない

――イマーシブ・フォートのクローズとジャングリアの苦境で、刀の資金繰りを心配する声もありますが、大丈夫ですか?

「もちろんどんな会社も先のことはわかりませんが、資金繰りは問題ないです。とはいえあれだけイマーシブ・フォートで損失を出したから、まあ正直、痛いですよね。想定以上の大損失を出したわけですからね。こんなちっぽけなベンチャー、普通ならもう飛んでいてもおかしくない。ただ我々は自己資本の範囲内で全部やっておりますので。痛い思いはしていますけれども、皆さんに心配いただくような状態でもありません。

 コンサルをやるためだけに刀を作ったのではありません。一生懸命、日本中にマーケティングを普及させるためにコンサルをやっている。コンサルで得たお金も含めて、実事業では自分たちでリスクをとって挑戦しているんです。挑戦しないと始まらないじゃないですか。ネスタリゾート神戸の前身であるグリーンピア三木は倒産したけど、なんとか今つながっているじゃないですか。これは前オーナーをはじめ、リスクをとってくた人たちがいたからです。USJだって一度破綻しているけれど、大阪市と米国ユニバーサル・スタジオが最初にお金を出してリスクとってくれたから、今日、関西の大経済マルチプライヤーとして存在しています。

 だから何十年もたった後、ジャングリアが地域に根付いてくれていたらいい。これをゼロから生むために奮闘した人たちなどは誰も知らなくていい。しかし、ジャングリアのおかげで沖縄が良い方向へ変わった、地域経済にとってありがたい、多くの人々が誇りをもって働ける、そんなふうに地元の皆様に思ってもらえるパークになっていたい。仲間たちとそのために頑張りたいなと思います」