沖縄北部のテーマパーク・ジャングリア沖縄のオープンからもうすぐ1年が過ぎようとしている。
オープンまでの苦難に満ちた道程は、森岡毅氏の著書『心に折れない刀を持て ジャングリア沖縄、誕生までの挫折と成長の物語』(ダイヤモンド社)に詳しく書かれているが、オープン後も苦難の道はさらに続いた。
波乱に満ちたこの1年を、どう振り返るのだろうか? ジャングリアの生みの親である株式会社 刀CEOの森岡毅氏に話を聞いた。(取材・亀井史夫/ダイヤモンド社)

ジャングリア沖縄開業1年。苦しかったときを振り返る。森岡毅インタビュー(前編)撮影・小島真也

改善を重ねて、今のジャングリアは本当に楽しい場所になっている

――ジャングリア沖縄のオープンからもうすぐ1年になりますが、この1年をどのように評価していますか?

「インフラが十分ではない沖縄の北部に、ゼロからテーマーパークを立ち上げるという途方もない挑戦が、途方もない困難を伴うことは、最初から覚悟していました。しかし実際に開業してからここまでの道のりは、想像以上に大変厳しいものになりました。

 まずは開業直後、十分満足していただけなかった方が多くおられたのは事実であり、大変申し訳なかったと思っています。もちろん、台風が3連発で開業週に沖縄に来るという滅多にない不運や、Googleレビューを我々が操作したという事実と異なる風説を流されたりもしました。しかしながら、本質的には、迎える側の準備が不足していたという真摯な認識に立つことが、ジャングリアにとって極めて大切だと私は考えています。

 では、テーマパークをオープンする準備はいつ十分に整うのか? この真の答えは、なかなかシビアなもので、テーマパークに限らず飲食店や宿泊業など、あらゆるゲストをお迎えするビジネスに共通すると思いますし、それらを経営した経験のある方ならきっと同意されると思います。

 それは「開けないことには本当の力を身につけることはできない」というものです。お客様に見立てた人を相手にする運営練習を何ヶ月もやりますが、実際のお客様を目の前にして受ける緊張感や実際の動きとは大いに異なります。練習によって事前に整えられることもありますが、必要な運営練度の高みは実戦経験を繰り返さないと到達することは不可能です。個人においても、組織力においても、これは真実だと痛感しています。

 したがって、開業時の混乱は、まだ実戦経験がないジャングリアの現場1300人のせいだとは、私は全く思っていません。彼らは本当によく頑張ってくれています。課題があったとすれば、その不可避の現実を見越した上で、開業時期や期待値コントロールに何が出来たのかというマネジメント判断のあり方です。

 もともと700億円という限られた予算で、建設途中でコロナ禍やウクライナ戦争による物価高などもあり、キャッシュの準備という意味で余裕のない状況でした。我々はギリギリのところで夏のタイミングで開ける判断をしましたが、他にどのような現実的な選択肢がありえたか!? 当事者の一人として考え続けています。

 開業時の準備不足は、初速のパークの評判に大きな影響を与えました。夏場はたくさんの予約をいただいていましたが、沖縄のオフシーズンに入ってからの集客のカーブが、想定から乖離していきました。年末年始は良かったですが、国際情勢の変化でインバウンド団体客のキャンセルなどもありました。

 冬場は総じて厳しかったので、あらゆるシナリオを想定しながら早めに金融機関とも相談し、いろんなことに備えながら春を迎えました。現場の努力でゲスト満足度が大幅に改善されたこともあり、幸い想定した一番悪い状況には至らず、徐々に盛り返してきて、なんとかしっかりと夏に向かう準備が整ってきたという感じです」

――オープン当初は「アトラクションの待ち時間が長すぎる」「夏場は暑いのに逃げ場が少ない」などの問題点が指摘されました。これらの課題に対する改善は進んでいますか?

「現場を運営するジャパンエンターテイメント(JE)社が、開業以来、真摯に改善を重ねています。

 例えば、大人気アトラクションの「ダイナソー サファリ」の待ち時間は、開業時は200~300分でした。しかしオペレーションの改善等によって、開業時と同じくらい入場者が多い日でも、現在では60分程度の待ち時間で済むようになっています。

 また、このゴールデンウイークに新導入された絶景のスリルを味わえるライドアトラクション「やんばるトルネード」により、さらにゲストが1日に体験できる感動とキャパシティを大幅に増強することができました。

 暑さ対策については、沖縄の亜熱帯ならではの湿度を考慮しながらJE社が必死に取り組んできました。具体的には、日陰で休めたり飲食したりできる大型スペースの新設、パークの随所に無料で冷たい水が飲めるウォーターサーバーの設置、涼しい水を使ったイベントやエンターテイメントの強化、“着る冷蔵庫”「冷感アイスポンチョ」の貸し出しなど、2回目の夏に向かってジャングリアは様々なことに取り組んできました。

 私個人としては、夏の暑さによる疲れを最も癒すものとしては、やはり「スパ ジャングリア」を一番オススメします。夏の暑さをむしろ楽しんで、最後に汗と疲れをジャングルのスパで溶かした後の快適感はたまりません。スパの後は1階で鮮度最高のオリオンビールなど冷たい飲み物やオシャレで美味しい食事も待っています。その瞬間が贅沢な沖縄のバカンスです!

 開けてみて分かった課題もたくさんあるし、開ける前に気づいておくべきだった反省もあります。いずれにしても課題がある限り改善する、これがプロの使命です。現場が頑張ってくれたので、今は安心して来ていただけるパークになっています。満足度をずっと取っていますけど、5月は89.2%、つまり10人来たら約9人はちゃんと満足して頂けるパークになっています。

 しかしながら、開業直後の混乱時の印象のまま、ご認識がまだ上書きされていない方が多いように思います。ぜひこの機会に、今のジャングリアは本当に楽しい場所になっていることをご理解いただければありがたいです」

ジャングリア沖縄開業1年。苦しかったときを振り返る。森岡毅インタビュー(前編)ジャングリア沖縄に今年導入された「やんばるトルネード」

――苦しかったこの1年、心が折れそうになることはなかったですか。

「やっぱり厳しかったのは、世間のお声に本気で悩む若いスタッフの純粋さに触れて、ああ、彼らを守りきれていないと感じたときです。結果を出していかないと人を守れないじゃないですか。まだ結果が出せていないのは事実なので、自分たちの力不足を痛感しながらの日々でした。

 夢をもって、沖縄のこの地で自分の人生を賭ける、世の中の役に立てる事業をゼロから創るという、純粋な気持ちで来てくれた仲間たちがいっぱいる。来ていただいたゲストの声はどんな厳しいお言葉でも喜んで受け止めますが、実際に来ていない人々やさまざまな意図を持った人々からの批判もかなりありました。彼らが心ない誹謗中傷にさらされるのを目の当たりにするのは、さすがにつらかったですね。

 しかしながら、一緒に落ち込むわけにはいきません。プロの使命として、今日来てくださったゲストにどれだけ満足して帰っていただけるか、自分たちのその課題に集中しよう。それこそが自分たちで変えられる変数だと。それを大事にみんなで一丸となって頑張ろうと。特に現場の皆さんが頑張ってくれたと思っています。

 真実は自分の瞼の裏に焼き付いています。本当に何があったか知っているのは、自分しかいないわけですよ。鏡に映った自分にちゃんと誇れる自分であるかどうか、人間が追い詰められたときに問うべきはまさにこの一点しかないと思っています。そもそも人の評価っていうのは毀誉褒貶するものです。それに合わせていたら一本道は歩けない。人の評価を気にしていたら、大きな挑戦とか冒険において、心折れずに歩き続けることはできないと思います。

 刀が始まって以来、どれだけ仲間たちが頑張って、どれだけの価値を創ってきたか。私はそのことを誇りに思っています。「西武園ゆうえんち」でクライアントと私たちが一緒にどれだけの価値を作ったか。前オーナーと苦労を共に乗り越えてサムティさんに橋渡した「ネスタリゾート神戸」。完全に死んだはずのグリーンピア三木が復活して今も事業が地域で輝いている奇跡をどうやって成し遂げたか。誰がどう情報を切り取って歪めようとしても、真実は全部、自分自身の瞼の裏に焼き付いてるんですよ。それがある限り、大丈夫です。プロならば、まだ結果を出してもいないのに、風評に動揺するわけにはいかないです」