「最近どう?」。部下にも、後輩にも、久しぶりに会った相手にも使える万能の一言だ。だが、これを口にした瞬間、相手の口は閉じている。アパレル史上最年少で上場した株式会社yutori社長・片石貴展氏は、新刊で「相手が本音を話さない人」に共通する振る舞いを挙げている。(構成:ダイヤモンド社書籍編集局/淡路勇介)

自分の言葉で話せるようになりましょう。Photo: Adobe Stock

なぜ「ぼちぼちです」で終わるのか

「最近どう?」
「ぼちぼちです」

この返答に、心当たりのある人は多いだろう。
相手に悪気があるわけではない。ただ、それ以上の言葉が出てこない。

理由は、問いの側にある。「最近どう?」は、AさんにもBさんにも、まったく同じ言葉で投げられる。投げられた側からすれば「これは自分に向けられた問いではない」と、どこかでわかってしまう。だから返ってくるのも、だれにでも言える答えになる。

片石氏は、著書『自分の言葉で話せるようになりましょう。』の中で、部下が何ひとつ持ち帰れない面談の典型として、この会話を挙げている。

「最近、どう?」
「ぼちぼちです」
「ぼちぼちって、どんな感じ?」
「うーん、忙しいといえば忙しいんですけど、なんか満たされない感じがあって……」
「あー、わかるわかる。“燃え尽き症候群”ってやつかもね」
「……そうなんですかね」
「要するに、タスクは回せてるけどモチベーションが上がらないってことでしょ?」
「はい、まあ、そんな感じです」
「だったら、ちょっと休みをとってリフレッシュしてみたら?」
「あ、ありがとうございます……」

――『自分の言葉で話せるようになりましょう。』より

一見、優しい上司に見える。話を聞き、解決策まで出している。だが部下のセリフだけを追ってみてほしい、と片石氏は言う。

「ぼちぼち」→「満たされない感じが」→「そう、なんですかね」→「まあ、そんな感じです」→「あ、ありがとうございます」。

会話が進むほど、部下の言葉はどんどん薄くなっている。そして最後は社交辞令で終わる。

その人にしか投げられない問いを投げる

「あれ、髪切った?」
たとえばこれでいい。

バッサリ切ったときはだれでも気づくが、髪の長さ、巻き方、分け目のわずかな変化に気づける人はそう多くない。だが、いる。片石氏は、それがコミュニケーション能力の高い人の特徴だと言う。

なぜ些細な変化に気づけるのか。人をよく見ているからだ。
では、なぜよく見ることができるのか。相手を記号で処理していないからである。

うちの妻はいつもこう
最近の若手はこうだから
あの人はこういうタイプ
このように考えた瞬間、その人は、相手のことを変化のない存在として、固着化してしまっている。

――『自分の言葉で話せるようになりましょう。』より

髪型、声色、表情、服、目の動き。

人間は本来、細部に満ちている。だが脳は毎秒、膨大な情報を処理しなければならない。相手の細部をすべて見るのはコストが高すぎる。だからラベルで分類し、そのパターンで処理する。効率としては、それがいちばん正しい。

しかし、やられている側には「自分はちゃんと見られていない」という感覚がじわじわ残る。

「最近の若手はこうだから」と一括りにされた瞬間、その後にどれだけ筋の通った話をされても、心は閉じてしまう。

部下が「あの人の言うことなら聞こう」と思うのは、その人が論理的に正しいからではない。自分のことをちゃんと見てくれている、と感じるからだ。

会ったときに、細部をひとつだけ覚えておく

とはいえ、同僚全員の髪型の変化に気づく必要などない。片石氏が挙げるコツは、拍子抜けするほど単純だ。

それは“会ったときに相手の細部をひとつだけ覚えておくようにする”です。
これだけです。あなたは、昨日会った人の、ネクタイの色を覚えていますか?

――『自分の言葉で話せるようになりましょう。』より

ネクタイの色でも、ネイルの色でも、シャツの柄でもいい。何かひとつだけ、覚えておく。スマホにメモしてもいい。すると、次に会ったときに変化に気づける。

そのときはじめて、「最近どう?」ではない問いが出てくる。

「先週言ってた例の件、あのあとどうなった?」「なんか今日、いつもより静かじゃない?」「その靴、この前と変えた?」

どれも、その人を見ていなければ絶対に出てこない言葉だ。そして、その人にしか投げられない問いを投げられた側は、その人にしか言えない答えを返しはじめる。

「部下」「上司」「ママ友」「同僚」…軽薄な関係とは?

片石氏は、軽薄な関係とは、お互いを記号で見ているだけの関係のことではないかと書いている。

「部下」「上司」「ママ友」「同僚」「お隣さん」

みんな、ラベルには収まりきらない物語を持っている。
その物語を知ろうともせず、閉じた関係で終わる。

関係が薄くなっていく時代の、いちばん根っこにある問題は、お互いを記号として見ることに慣れすぎてしまったことだ。

人は、ちゃんと見てほしい。
「最近どう?」なら、明日からでも言える。だが、それでは相手は動かない。
必要なのは、昨日会ったあの人のネクタイの色を、ひとつだけ覚えておくことだ。

(本稿は、『自分の言葉で話せるようになりましょう。』の一部を引用したオリジナル記事です)