出世が実力だけで決まらないことは、多くのビジネスパーソンが薄々感じているだろう。じつは、早く昇進する人ほど、上司との縁故や引き立て、すなわち「引き」を巧みに使っている。出世を早める「引き」を理解すれば、社内政治に振り回されずに自分のキャリアを冷静に見きわめる視点が得られるはずだ。(構成:ダイヤモンド社書籍編集局)

出世する人のイメージPhoto: Adobe Stock

なぜアイツが先に昇進した?

 実力に大差はないはずなのに、なぜ同期のあの人だけが先に昇進したのか。上層部と距離が近い人間ほど早く引き上げられていく――そんな場面に、モヤモヤした経験を持つ人は多いのではないだろうか。

 この不公平に見える現象を正面から解剖したのが、『[新装版]ピーターの法則』である。著者のローレンス・J・ピーターは、組織のなかで人は有能さを買われて昇進を重ね、やがて力の及ばない地位=「無能レベル」に達してそこで止まる、と説いた。これが「ピーターの法則」だ。

 本書はそのうえで、昇進のスピードを左右する要素として「引き」を挙げている。

 本記事では、引きの正体と、それを手に入れる具体的な方法を整理する。出世を早める強力な追い風の仕組みを知ることは、社内政治の空気を読み違えないための武器になる。

「引き」の正体と5つの鉄則

 まず、引きとは何か。本書には次のように書かれている。

引きとは、従業員が――血縁や婚姻関係や親交によって――階層内の上司とつながりを持つことを言います。(『[新装版]ピーターの法則』より)

 著者は、引きを手に入れるためのアドバイスを5つに集約している。

 1つめは、「パトロンを見つけよ」。パトロンとは、自分より上位にいて昇進を後押ししてくれる人物のことだ。

 2つめは、「パトロンには動機を与えよ」。助けても何も得るものがなければ、誰もわざわざ動いてはくれない。

 3つめは「はい出せ! はい上がれ!」、4つめは「見切りは早めに!」だ。

 パトロンは自分の位置より上へは引き上げられない。だからその人が頭打ちになったら、より高い地位の人へ乗り換えよ、というわけだ。

 そして、5つめが「複数のパトロンを持て!」。数が増えるほど互いに評判を補強し合い、引きの効果は倍増するという。

 興味深いのは、著者が引き立てへの反発をこう分析している点だ。

階層社会で働く人々は、じつは無能に対して反発を覚えているのではありません(ピーターの逆説)。引きにあずかる者へのねたみを隠すために、「無能なヤツ!」と悪態をついているだけなのです。(『[新装版]ピーターの法則』より)

「難所」は回り道で抜ける

 5つのうち、実務で最も応用が利くのが3つめの「はい出せ! はい上がれ!」だろう。

 本書は、飛び込み台のはしごを例に説明する。途中で怖じ気づいた人が手すりにしがみついていたら、後ろの人はどれだけ声をかけても前に進めない。

あなたがいくら努力しても、またパトロンがどんなに必死にあなたを引き上げようとしても、あなたのすぐ上のポストが、無能レベルに達した「特大つけもの石」なる人物でふさがれてしまっていては、どうにもならないのです。(『[新装版]ピーターの法則』より)

 著者はこの状態を「ピーターの難所」と呼ぶ。そして解決策は、いったんはしごを降り、別のはしごに移ること。これが「ピーターの急がば回れ」だ。昇進ルートそのものを軌道修正せよ、という助言である。

 ただし本書は、動く前の見きわめを重視する。すぐ上の上司がまだ昇進しそうなら、その人はつけもの石ではない。少しだけ待つ賢明な忍耐のほうが得策な場面もあるだろう。異動や転職を考える前に、上のポストが本当に詰まっているのかを冷静に観察したい。

早く昇る人ほど危ういワケ

 ここまで読んで、引きを使いこなす気になった人もいるはずだ。だが本書は、この章の最後に強烈な一撃を用意している。

これらのヒントに従えば、あなただって引きを手に入れられます。そして、引きはあなたの階層内での昇進を早めてくれます。(『[新装版]ピーターの法則』より)

 続けて著者は、引きはあなたが無能レベルにいち早く到達するのを手助けしてくれる、と皮肉る。

 昇進が早いということは、それだけ早く「自分の手に負えない椅子」にたどり着くということでもある。危険きわまりない最短ルートだと言い換えてもいいだろう。

 つまり本書のメッセージは、「引きを使え」でも「使うな」でもない。昇進とは無条件の勝利ではなく、自分が有能でいられる場所を捨てる行為でもある――その両面を知ったうえで選べ、ということなのだろう。

(本記事は、書籍『[新装版]ピーターの法則』の一部を抜粋・編集したものです)