いつまでも冴えた頭で、仕事や人生を楽しみたい。そう願う人は多いだろう。しかし現実には、70代にもなると、頭の回転が鈍くなり、新しいものを吸収するのが億劫になる人もいる。元オックスフォード大の医学研究者で、「糖と脳」の専門家として知られる医師・下村健寿氏によれば、その違いは脳の衰えではなく、毎日の習慣にあるという。その習慣とは、何なのだろう。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)

70代でも「頭が冴えている人」の習慣・ベスト1Photo: Adobe Stock

脳が衰える人と、「いつまでも冴えている人」の違い

70代にもなると、日常に小さな違和感を抱くことが増える。

「あの人の名前、なんだっけ?」
「あれ、何を買いに来たんだっけ?」
「どこに置いたんだっけ?」

年齢を重ねれば、誰の脳も少しずつ衰える。
実際、大規模疫学調査では、50歳を過ぎると男女ともに脳の容量が少しずつ小さくなることがわかっている。

だが一方で、最期まで「冴えた頭」でいつづける人もいる。

70代になっても、新しいことを学ぶ。
本を読む。
人と議論を楽しむ。

そんな「頭が冴えている人」は、決して特別な才能を持っているわけではない。

元オックスフォード大の医学研究者であり、医師としても活躍する「糖と脳」の専門家・下村健寿氏は著書の中で、その違いは「脳の使い方」にあると説明している。

脳はボロボロなのに「頭」は冴えていた女性

その象徴が、「修道女スタディ」と呼ばれる有名な研究だ。

ノートルダム修道女会のシスターたち678人を対象に行われ、彼女たちは認知機能テストに協力するだけでなく、死後の脳の提供にも同意していた。

そして亡くなったシスターたちの脳を調べていくと、ある衝撃的な修道女が発見されたという。

彼女の名は、シスター・メアリー。彼女は101歳で亡くなる直前まで聡明で、周囲の人々と活発に交流し、認知機能テストでも満点に近いスコアを出し続けていました。ところが彼女の脳を解剖してみると、驚くほど大量のアミロイドβが蓄積していたのです。医学的な診断基準に照らせば、彼女は間違いなく末期のアルツハイマー病であり、日常生活さえ困難なはずの状態でした。
――『糖毒脳 いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』(下村健寿・著)より

それでも、彼女の認知機能は保たれていた。

この不思議な現象を説明するのが、「認知予備能」という考え方だ。

アルツハイマー病が脳細胞を破壊し、メインの幹線道路を寸断したとしても、脳内に無数の裏道(バイパス)が張り巡らされていれば情報は目的地にたどり着くことができます。これを専門用語で「認知予備能(Cognitive Reserve)」と呼びます。
――『糖毒脳 いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』(下村健寿・著)より

シスター・メアリーをはじめ、認知症の発症を免れた女性たちは皆、最期まで読書を楽しみ、社会問題について議論し、日記を書き続けていたという。

つまり、脳は神経細胞の数だけでは決まらない。

日々の「創造的な刺激」が多い人ほど、年齢を重ねても機能を維持しやすいのである。

いつまでも「頭が冴えている人」の習慣

さらに下村氏は、「読む」「考える」だけでなく、「体を動かすこと」も重要だと強調する。

運動をすることで脳内にBDNF(脳由来神経栄養因子)が増え、それによって神経細胞同士のつながりが強くなることがわかっているからだ。

読む。
考える。
人と話す。
歩く。

こうした「脳に新しい刺激を与え続けること」が、70代以降も頭が冴えている人の習慣なのだ。

認知症になりにくい脳をつくる。

それは、脳を毎日、少しずつ成長させる生活を続けることなのである。

(本稿は、下村健寿著『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』の内容をもとに作成した記事です)

下村健寿(しもむら・けんじゅ)
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。