この事件をきっかけに、多数のイスラム関係の書物が出版されましたが、中でも評価の高い本が、これです。長年、イスラム政治思想を研究してきた成果を、一般の読者にもわかりやすい形で紹介してくれています。
自称「イスラム国」は、カリフ制を宣言しました。カリフとは預言者ムハンマドの後継者のこと。勝手な宣言を、世界のイスラム教徒が承認するはずがありません。
しかし、その一方で、「イスラーム法では、カリフの存在の必要性は明確に規定されている。『コーラン』とハディース(預言者の言行録)に依拠して、歴代の法学者が議論で合意に達した見解を疑うことは宗教上許されない」(同書)というのも、また事実です。
さて、ここで登場した「イスラーム法」(イスラム法とも表記)とは、何でしょうか。これは「法」とはいうものの、私たちが考える法律とは、大きく異なるものです。
『知の本棚』(池上 彰、新潮社)
唯一絶対の神(アッラー)が人間に下した言葉を記したとされる『コーラン』に書かれた内容こそが、人間たちが守るべきルール(法律)です。でも、すべてを『コーラン』だけで判断することはできません。そこで、預言者ムハンマドの言行録(『ハディース』=伝承という意味)が重要になります。ムハンマドは神から選ばれ、神の言葉を人間たちに伝える役割を与えられたとされています。ということは、ムハンマドが、もし神の意思に背く行動を取れば、神が諫めたはずです。つまりムハンマドの行動は、すべて神の意思に適っている。イスラム教徒たちはこう考え、ムハンマドの言行を分析・解釈することで、現代生活のルールに適用しようとしているのです。
この知識に長けている人が「イスラム法学者」と言われ、名前の後に「師」をつけて呼ばれます。
現代のイスラム世界は、「イスラム法」をどう評価するのか。その疑問は、この本を読めば氷解します。
<池内恵『イスラーム国の衝撃』文春新書、2015年>







