会議でトランプはさまざまな話題を持ち出し、それから徐々に本題へと移っていく。会議は順調にはこび、その後すぐにトランプの上級顧問で退役陸軍中将のキース・ケロッグからポッティンジャーに政権参加の要請があった。
ポッティンジャーは即座に承諾したが、国家安全保障会議(NSC)スタッフのアジア担当上級部長職という立場には不安を感じた。重要な職務だが、ポッティンジャーには政府での勤務経験がまったくなかったためだ。トランプタワーでのブリーフィング以外、次期大統領との接点もなかった。しかも政策に託されるものは大きかった。トランプは選挙戦を通じて中国の貿易戦略を激しく非難しており、北朝鮮は6回目の核実験を行おうとしていた。
ポッティンジャーは妻イェンと1歳半の息子のためにワシントンに家を借りた。しかし2月になって、政権移行期間中のロシア大使との接触についてマイク・ペンス副大統領に虚偽の報告をしたと政権関係者に判断され、フリンが辞任した。フリンの失脚でポッティンジャーは最も近い支援者を失い、彼自身の将来への疑問が影を落とした。
「あの夜、家に帰ったあと思った。袋小路への大きな回り道だったかもしれない、あと数日しかこの職についていられなかったら、今後の人生をどうするか考えよう、と」と彼は語った。
中国を取り込む政策を捨て
アメリカは対決路線にかじを切った
しかし1週間後、トランプはH・R・マクマスター将軍をフリンの後任に指名した。そしてマクマスターは、国家安全保障担当補佐官としてポッティンジャーの留任を決めた。かくして彼はその年の大半を政権のインド太平洋地域の戦略的枠組みづくりに費やした。完成した10ページの文書には、北朝鮮の脅威と、中国の影響力を弱めつつこの地域で「自由主義的経済秩序」を推進する必要性が記されていた。
ポッティンジャーは、中国の野望を感情は交えずに記載した。
中国をアメリカ主導の国際秩序に統合するというクリントン政権の希望は失われた。今後は「両国の政治、経済システムの互いに異なる性質と目標」に基づく「戦略的競争」が予想される。中国はアメリカとの同盟関係を「解消」し、利益があると判断すれば国際規範やルールを侵害することが予想される。
こうした直截な結論が、新戦略の指針となる14の前提条件の1つとなった。
『グローバリゼーションは失敗だったのか 下』(デイヴィッド・J・リンチ著、寺尾時彦訳、原書房)
ポッティンジャーは、中国にイデオロギー的意図などなく、アメリカが唯一の超大国であり続けることに満足しており、自国の経済発展に注力しているだけと主張する情報当局者と数週間にわたって対立したのち、ようやく省庁間の合意を得たのである。トランプ陣営の見方ははるかに暗いものだった。
インド太平洋戦略は、トランプの顧問たちが計画していた中国との貿易・技術戦争の指針だった。「中国は人工知能やバイオ遺伝学を含む先端技術を管理し、独裁体制のために利用しようとしている」と戦略には記されている。中国の成功は「自由社会に深刻な課題を突きつける」。ポッティンジャーは「中国の経済的侵略に対抗する」機密作戦計画として、アメリカの技術的優位性を維持し、中国の行動が世界貿易システムを損なっているという国際的な共通認識を固めるよう求めた。「外国の競争を締め出し、アメリカの経済競争力を損なわせ、中国共産党が21世紀の経済を支配しようとする野望を助長する略奪的な経済行為に対抗する」ことを文書は求めている。







