資格の勉強、自己啓発セミナー、残業によるアピール――出世のために必死に努力しているのに、なぜか評価されない。そんな悔しい経験をしたことはないだろうか。じつは「自分の力で道を切り拓く」タイプの努力が昇進に結びつかないのには、あらゆる組織に共通する構造的な理由がある。その理由を知れば、ムダな努力を手放し、より戦略的にキャリアを築くヒントが得られるはずだ。(構成:ダイヤモンド社書籍編集局)

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努力が報われない人の共通点

「だれよりも頑張っているのに、なぜか昇進の声がかからない」――そんな不満を抱えているビジネスパーソンは少なくないだろう。朝早く出社し、遅くまで残業し、資格取得にも励む。それなのに同期に先を越されるのは、いったいなぜなのか。

 この疑問に対して、組織における昇進のメカニズムを鮮やかに解き明かしたのが、『[新装版]ピーターの法則』(ローレンス・J・ピーター、レイモンド・ハル著、渡辺伸也訳)である。

 本書では、組織で人が上を目指す力を「押し」と「引き」の二つに分けて説明している。「押し」とは本人の努力や自己アピールで上昇する力、「引き」とは上位者とのつながりによって引き上げてもらう力だ。

 そもそも「ピーターの法則」とは、「人は自分が無能になるレベルまで昇進する」という組織に関する法則である。有能な人は昇進を重ねるが、やがて能力の限界に達したポストにとどまり、結果として組織のあらゆるポストが無能な人で埋まっていく。

 著者は、この法則のもとでは「押し」がほとんど役に立たないと指摘するのだ。

「押し」が組織で通用しない理由

 著者の研究によれば、自己アピールは無力だ。どんなに本人が頑張っても、「押し」は組織内の年功序列という圧力の前にあっさりつぶされてしまうというのだ。

押しという上昇志向の力は、年功序列という圧力の前でつぶされて無力なものにされてしまいます。つまり、引きのほうが押しより強力だということです。(『[新装版]ピーターの法則』より)

 しかも、押しでアピールしたところで、最終的にたどりつく地点は変わらないと著者は述べる。積極的なタイプも控えめなタイプも、すべての人がピーターの法則の支配下にあるからだ。

攻めのタイプも、控えめなタイプも、すべての人間がピーターの法則の支配下にあって、遅かれ早かれ無能レベルに落ちつくのを回避することなどできないからです。(『[新装版]ピーターの法則』より)

 つまり、自己アピールで昇進を早めたとしても、それは無能レベルへの到達を早めるだけ。努力の方向を誤ると、望んだキャリアとは真逆の結果を招きかねないのである。

自己啓発が「逆効果」になるとき

 さらに驚くのは、勉強や自己啓発がかえって昇進を遠ざけるケースがあるという指摘だ。本書には次のように書かれている。

勉強や自己啓発に熱心なことは、むしろマイナスの効果をもたらすという見方もできます。つまり、新たに有能な分野が開拓されれば、無能レベルに達するまでに、余計に多くのステップを踏むはめになるからです。(『[新装版]ピーターの法則』より)

 たとえば、外国語を習得したセールスマンが海外支店への異動を命じられ、本来なら不要だったポストをいくつも経由するはめになるエピソードが本書では紹介されている。スキルを増やしたことで、かえって遠回りな昇進ルートを歩まされるというわけだ。

 また、著者は早朝出社や深夜残業といった「押し」についても、一部の同僚からは賞賛されるが、魂胆を見透かす人からは嫌悪感を持たれるため、差し引きゼロに終わると分析している。

「押し」の限界を知ることの価値

 では、「押し」に意味がないなら、どうすればいいのか。著者は、「引きがあてにできるのなら、押してはいけません」と言う。

 もちろん、努力そのものが悪いわけではない。ただ、組織の構造を理解せずに「押し」だけで突き進むのは、効率が悪いだけでなく、過労といった健康上のリスクまであると著者は警告する。大切なのは、自分が今いる組織の力学を冷静に見きわめることだろう。

「押し」の限界を知ることは、決してあきらめではない。ムダな消耗を避け、本当に意味のある行動にエネルギーを集中させるための、したたかな生存戦略なのである。

(本記事は、書籍『[新装版]ピーターの法則』の一部を抜粋・編集したものです)