
名探偵・卯三郎登場!?
「二人とも。意地っ張りのところがよく似てますね」
卯三郎のこの言葉で、ふたりが名乗り合ったか合わなかったかはわからないが、誰もが文と直美が母子であることを認めたことになる。
ここからは卯三郎が探偵キャラみたいになる。
柳川文という名は、彼女がこの店に来たとき、自分自身でつけたものだと明かす卯三郎。その理由は自分で名をつけると愛着がわくからだと。
「娘に名をつけなかったのは、拾った人に愛され育ててもらいたかったからでは…」
「直美さん、あの狭い部屋で二人きり。あなたの名を呼び過ごした時間は、文さんにとってこれ以上ない人生のご褒美だったかと」
ミステリードラマの探偵が最後に語るセリフのようだった。名優・坂東彌十郎の語り口が染み入る。さながら文はミステリーにおける真犯人のようだ。確かに子どもを捨てた罪人ではある。そして文はその罪をせめてお金で償った。
「堂々と受け取ってください。親が残した遺産ですから」と卯三郎。
みなしごで、お金に苦労し続けた直美は、ついに一財産、得ることができたのだ。まさに「人生は運」(第84回より)。お守りと同じ布の髪飾りも受け取った。
感動譚として書かれているはずなのに、お金が出てくるとなぜかちゃっかり遺産を手に入れた人、みたいにも見えてしまう。それはこれまで直美がちゃっかりキャラとして描かれてきたからだ。いや、でもここは素直に感動に浸りたい。
ここで重要なのは、名前をつけずに捨てた母親の心情だ。冷たい行為という印象とは真逆の、めいっぱいの愛情表現だった。
長年、望まれずに生まれた孤独感に苛まれていた直美が、ようやく自己肯定感を覚えることができたのだ。
文には「これまで随分、努力なさったんですね」、美津には「よくやりました。よく頑張りました」、卯三郎にも「(直美のしたことが)文さんにとってこれ以上ない人生のご褒美だったか」と。
これだけ肯定されて、直美はいま、これまで生きてきて最高に自己肯定感を味わっているはず。でもそれは母との出会いと悲しい別れと引き換えだった。
りん(見上愛)に手紙を書く直美。送ってくれたぶどう酒で、美津と環で献杯したと報告する(ただし環は水)。
つまり、文はぶどう酒を直美と飲むことは叶わなかったのだろう。神社に参ったあと、ほどなくして亡くなったと考えられる。りんと山本(本田大輔)と同じ、やりたいことをやって亡くなるパターンである。りんも直美も、人間は最期にどうしたいかという、なかなか答えの出せない究極の問いに向き合ったのだ。
ぶどう酒の瓶に花を飾る直美と環。これは文への供花か。臨終の瞬間も、親子の名乗り合いも描かない、余韻を残した終わり方だった。
内田慈さんのコメント
すばらしい演技を披露してくれた内田慈さんのコメントを紹介しよう。なんと最初から、直美の母であることは知らされたうえで演じていたそうだ。気づかせない塩梅がすばらしかった。
――柳川文役を演じられていかがでしたか?
文が元・女郎であり直美のお母さんであるということ、具合が悪くなった文を看護するなかで直美に新たな決意や気持ちが生まれるということを最初に聞いていたので『これはすごい大役をいただいたな』と思いました。
このドラマは必死で生きる人たちがバトンを渡して進む物語。文としてきちんとバトンを渡す役割を果たしたいという思いで演じていました。
文は冷静でスンとした人なのかと思っていたら、美津さんや卯三郎さんと楽しく笑ってしまうようなところもあり、つかみどころがない人。直美が自分の娘だということも『ここで気づいた』というはっきりとしたポイントはないんですよね。自分のことを語らないと決めている人で疑問が生じても深掘りせず、フワッとそのまま置いておくようなところがある気がします。
『まさか……』が重なって『やっぱりそうなのか』と受け入れた感覚。人生の辛酸をなめてきた文は『こういう現実ってあるんだよね』と、娘との再会という奇跡的な偶然も妙に静かに受け入れられたのだと思います。
今まで演じたことのないタイプの役でしたが、気づいたら自分の中に文という人間がはっきりといた。そんな役作りは初めてでおもしろく、私にとって特別な役になりました。
――娘である直美を演じる上坂樹里さんへの思いは?
上坂さんへの思いはたくさんあります。
直美が文の看病をしてくれるシーンで、例えば“手を取る”とか“体を支える”というお芝居のとき、上坂さんはすごく優しいんです。“自分とは違う人間に触る”ということに対しての敬意や注意を感じました。それでいて遠慮せず支えてくれるから不思議なものが両立していて、安心して身を預けたい気持ちになりました。
彼女自身が持っているものが出ているのでしょうけれど、更に彼女が大家直美という看護婦を志す人間としてここまで生きてきた証でもあるのだろうと感じました。
上坂さんとは空き時間は全然関係のない話をしていましたが、撮影が始まると二人ともなるべくフラットでいたいからおしゃべりはしないほうが楽なタイプ。その空気感も居心地がよく自然な信頼関係が生まれた気がします。








