史実を知るほど納得…福沢諭吉『学問のすゝめ』が伝えた「学ぶ意味」〈風、薫る第88回〉

りん、求婚される

 かっこいい振る舞いをして、風の音と共にかっこよく去っていった横沢であったが、画面が変わると、刑務所に入っていた。

 面会に来てほしいという手紙をもらったりんは校長(関智一)に相談。校長は反対する。捕まった人と関係があると知られたら何を言われるかわからないと心配しているのだろう。

 その判断が間違っているか正しいかは関係ない。よそ者で子持ちで働いている。そういう人なのだから言動に注意してほしい、とりんに噛んで含めるように言う。「そういう人」という言い方に偏見がこもっている。

 りんと校長の話を聞いていた久(近藤華)は正しいか間違いかは大切ではないかと口を挟む。

 だが、校長はきれいごとでは済まないことがあると説く。いま、この社会での女性の身の守り方や得な生き方を教えているのだと。

「それでもわたしは先生にもきれいごとの理想を語ってほしい」とりんは思う。環が女学生になったら。いい縁談はもちろん、学ぶことそのものを楽しんでほしい。

 友人(シマケン)が役に立たない言葉を学ぶことを楽しんでいると語るりんにも、うっすら福沢諭吉の『学問のすゝめ』の影響を感じる。だが校長の心は動かない。彼には福沢諭吉イズムは浸透していないようだ。

 りんのような考え方はこの町では難しいと校長は否定して、どうして看護婦をやめたのかと聞く。それでりんはぐうの音も出なくなってしまう。校長はもしかして、りんの起こした事件も知っているのかもしれない。それでも大山巌(髙嶋政宏)の権威に抗えず黙って彼女を受け入れたのかも。

 りん自身が正しさと誤りの矛盾のなかでなんとか生きながらえているのだ。

 りんはシマケンに返事を書く。その手紙にりんの悩みを感じたシマケンは「りんさんらしくいるのがずっといとしげな気がします」と返事をよこす。

 ちなみに、このときシマケンがチュウ(若林時英)の新作の感想を聞かれ「言葉にできない」と言って「小説家でしょう」とツッコまれている。看護とは何かも簡単に言葉にできないし、何が正しく何が間違いかも簡単に言い切れない。このドラマのなかでは誰もが言葉にできない、名付けようのない事象に迷っている。

「私らしく」と言われたりんは横沢の面会に行く。

 そこで、横沢の口から出た言葉が、「結婚しませんか?」。

 私らしく振る舞うと、とんでもないことを呼び起こしてしまうのが、りんなのだ。

「しません…。え、しません、しませんよ」と慌てるりん。「しません」と「シマケン」の語感が似ているのは偶然であろうか。

 さて、その頃、直美(上坂樹里)は派出看護の会を吉江(原田泰造)に「恵風看護婦会」と名付けてもらい看板をあげた。さっそく第一号の患者(の家族)が現れ、しのぶ(木越明)が看護に向かう。

 だが、依頼人に家事を頼まれるなど女中扱いされて反抗し、依頼取り消しに。

 しのぶは呉服屋のお嬢様のプライドが抜けない限り、看護婦は難しいのではないだろうか。

「患者を助けるのが仕事なら、嫁(看護の対象)はそれが一番助かりますよ」と依頼人(姑)に言われ、「そんなにお元気でしたら、ご自分でされてはいかがです?」、なんて、この会話、ドラマだからおもしろく見ることができるが、実際、こんな言い方をする看護婦がいたら、いやだ。

史実を知るほど納得…福沢諭吉『学問のすゝめ』が伝えた「学ぶ意味」〈風、薫る第88回〉