先の先生は次のように話します。

「小さな子どもが言葉を使えるようになるには、大人との会話の絶対量が必要です。たとえば友達とケンカして泣いている時、子どもは大人から『強い言葉を言われて嫌だったんだよね? 相手の子はなんでそう言ったのかな? これからその子とはどうしたい?』と気持ちを代弁してもらったり、整理してもらったりすることで、自分の感情を把握し、人に伝えられるようになっていくのです。しかし、今は大人と子どもの間の会話が格段に減ったことで、そうした力がつきにくくなっています」

 本書でも細かなデータを示しましたが、家庭内での親子の会話の時間は、統計的にも減っています。平日も休日も減少傾向にあるのです。さらに友達と遊ぶ時間が減ることで、友達同士の会話そのものも少なくなっています。

 先生はこうつづけます。

「大人と子どもの会話を減らしている一因は、間違いなくスマホやタブレットにあります。最近は未就学児ですら自分専用の機器を持っていて、園の送り迎えの時はもちろん、食事の時間ですら親子がそれぞれスマホを見て無言で過ごすのが当たり前になっています。また、今は園や学校が日々の出来事をリアルタイムで親に伝えますし、親もさまざまなアプリを駆使して子どもの活動を把握できるようになっています。それゆえ家庭で『今日何があった?』『楽しかった?』という日々の出来事を話し合うという基本的なことすらなくなっているのです」

 アプリは日常の中の多くのものを可視化しますが、それが家庭内の会話を逆に減らしているということです。

 他に取材で挙げられた理由としては、子どもの遊び相手がスマホやゲーム機になることで会話が減った、親がSNSばかり見ていたり、家でも仕事をしたりするので会話の機会が減ったという声がありました。

 このように親子の会話が減れば、子どもが細かな言葉で気持ちを表現したり、人と話し合ったりするのが苦手になるのは仕方のないことです。子どもたちの〈ことばの力〉が弱まっている背景には、そうした状況があるのです。