「これは、ちょっと言い過ぎかな」。

 7月17日午後、都内で“年に1回開かれる事業方針説明会”の席で、今治造船の檜垣幸人社長は、目をキョロキョロさせておどけてみせた。

「(造船業は)そんなに稼げない。早くそれに気づいて撤退するか、他の業態に変換するべきと思う。われわれ造船専業メーカーですら、生き残りを懸けて必死に頑張っている。できるだけ市場原理に任せて、国とか行政の援助を受けないような造船業の健全な淘汰を望む」

日本最大の海事都市・愛媛県今治市の“盛り立て役”も担う今治造船グループ(写真は、今年で3回目となる国際海事展“バリシップ2013”の様子)
Photo by Hitoshi Iketomi

 国家の全面支援を受けて、東アジアの市場を席巻してきた「韓国・中国勢の動向に関して」と断った上での発言だが、そこには理由がある。

 アベノミクスで、円の独歩高が是正されたことだ。過去数年、今治造船は、為替が1ドル=80円でも戦えるように瀬戸内海沿岸に点在する工場群を“一つの大きな工場”と見立て、迅速にブロック単位の半製品を相互融通するなど、最も安く効率的に生産する体制を築いていた。だが、円が100円に戻してきたことにより、再び勢いを盛り返せる環境が整ってきたのである。

 すでに、2012年5月に三菱重工業と今治造船は、あらためて対等な技術提携を結んだことから、“最新技術は三菱重工、安価な大量生産は今治造船”という役割分担ができた。そこに、17日に買収を発表した常石造船グループの多度津工場(香川県)が9番目の工場として加わる。

 今治造船は、連結売上高4196億円(12年度)の国内首位企業ながら、非上場のファミリー経営で情報開示は限定的。だが、暗い話題ばかりの業界で、着々と“逆張り戦略”を続けて、15年以降の市況回復後をにらんで生産能力を増強する姿勢は健在である。

 現在、国内の造船業は、実質的に日本最強の組み合わせである「三菱重工+今治造船グループ」と、危機感を抱く造船メーカーの集合体である「ジャパン マリンユナイテッド」という二つの“強者連合”に収斂しつつある。そこに、第3極として、「川崎重工業+三井造船」が加わるはずだったが、川崎重工内のお家騒動が原因で破談に終わった。