「世界経済を止める海上の急所」と聞けば、多くの人は石油輸送の要衝、ホルムズ海峡を思い浮かべるだろう。だが、より深刻な影響を及ぼしかねないのがマラッカ海峡だ。ここには石油や天然ガスだけでなく、食料、鉱物資源、工業製品など、私たちの暮らしと産業を支えるあらゆる物資が集中する。封鎖されれば、日本を含む東アジアはどうなるのか。なぜ、この細い水路が「アジアの命運」を握るのか。本稿では、『地図で学ぶ「深読み」世界史』著者へのインタビューを通じ、ホルムズ海峡との決定的な違いと、地図から見えてくる世界経済の意外な弱点をひもとく。

世界経済が大混乱! 「海上の急所」ワースト1はホルムズ海峡ではない。ではどこ?Photo: Adobe Stock

ホルムズ海峡よりマラッカ海峡のほうが怖い理由

 世界経済に大きな影響を与える海上の要衝として、マラッカ海峡、ホルムズ海峡、アフリカの角などが挙げられる。その中で最も重要な場所を一つ選ぶとすれば、やはりマラッカ海峡ではないだろうか。アジアの命運を握っていると言っても過言ではない。

 もちろん、石油輸送の要衝であるホルムズ海峡も非常に重要である。ホルムズ海峡が通れなくなれば、石油の供給が滞り、エネルギー価格が上昇するなど、世界経済は大きな打撃を受ける。ただ、極端な言い方をすれば、石油が入ってこなくなった場合、生活や産業が著しく不便になる一方で、ただちにすべての物資が途絶えるわけではない。

 対して、マラッカ海峡が通れなくなった場合には、石油や天然ガスといったエネルギー資源だけでなく、食料や鉱物、工業製品など、あらゆる物資の輸送に影響が及ぶ。日本をはじめとする東アジアの国々にとっては、本当の意味での死活問題になりかねない。

日本の食料も資源も、この細い海峡を通ってくる

 特に日本は、海外から多くの資源や食料を輸入している。その多くが、インド洋からマラッカ海峡を通り、南シナ海を経由して運ばれてくる。仮にマラッカ海峡が封鎖されれば、船は大きく迂回しなければならず、輸送にかかる時間や費用が一気に増えることになる。状況によっては、必要な物資そのものが十分に届かなくなる可能性もある。

 影響を受けるのは、日本だけではない。たとえばオーストラリアからは、鉄鉱石や石炭をはじめとする鉱物資源が世界各地へ運ばれている。また、オーストラリアは農業や牧畜も盛んであり、小麦や食肉などの食料資源も供給している。そうした資源や食料がアジアや世界の市場に届かなくなれば、製造業から日々の食生活まで、幅広い分野に影響が広がる。

世界地図の「細い一本」が世界経済を握る

 マラッカ海峡は、最も狭い場所では幅が限られているにもかかわらず、膨大な数の船が行き交っている。世界地図の上では細い一本の水路にすぎないが、実際にはエネルギー、食料、資源、製品を運ぶ世界経済の大動脈である。

 ホルムズ海峡がエネルギー供給の急所だとすれば、マラッカ海峡は、より多様な物資が集中する物流全体の急所だと言える。だからこそ、世界経済に最も大きな影響を与える海峡を選ぶなら、マラッカ海峡なのである。