3万5000人が体験し、23万人の心を動かした授業

まったく無名の一美術教師が書いたにもかかわらず、同書はたちまち23万部を超えるロングセラーとなり、その反響の大きさに私自身もずいぶんと驚かされました。

そして、本を読んでくださった方々から熱烈な感想文をいただくと同時に「うちの会社・うちの学校でもぜひ授業をしてほしい!」というご相談を数知れずいただくようになったのです。

従来であれば、このようなアートの考え方は限られた分野を除けば「ムダ」なものだと見なされていたことでしょう。
なるべく個人の主観を排除して、できるかぎり効率よく、疑問の余地がない「客観的な正解」を導き出す─そういう考え方が世の中ではずっと求められてきたからです。

しかし、現代では状況が大きく変わりました。

どうやらいま、教育の世界でも、またビジネスにおいても、かつてないほど自分なりの答え」を生み出す力が求められているし、同じくらい新たな問い」を立てる力が欠かせなくなっているようです。

この背景には、社会を取り巻くさまざまな環境の変化に加え、コンピューターや生成AIによるオートメーションの目覚ましい進化があります。「客観的な答え」が容易に導き出せるようになった現代ではむしろ、自分自身の興味や疑問を起点にした「問い」や、人間の感覚から導かれる「答え」の重要性が増しているのです。

近年の学校教育で、生徒自身が立てた問いから学習活動をはじめる「探究学習」が正規科目として導入されたことも、こうした変化を象徴しています。

本を出版してからの6年間だけでも、一見アートとは無縁そうな大企業や老舗企業、未就学児向けクラスから大学までの教育機関、さらには自治体や非営利組織など、多岐にわたる場で3万5000人を超える方々と「アートの教室」をともにする機会がありました。