一方、『孫子』の大きな特徴は、戦争は国家目標を達成するための一手段であると割り切る姿勢――。すなわち、軍事の書でありながら戦争の価値を絶対視せず、好戦的な内容とはなっていないことだ。
『孫子』はその書中で、戦争は国家財政を疲弊させる弊害多きものであると指摘し、いざ戦う場合は事前に綿密な計算(廟算)を尽くしたうえで短期決戦に徹するべきだと説く。もちろん補給も重要だ。ゆえに、費用と時間のかかる城攻めは、ほかに方法がないときの最後の手段であって推奨されない。こうした戦争観に立つならば、なにより望ましいのは実際には戦わずに国家の目標を達成することだ。それを示すのが、以下の有名な一節である。
不戦而屈人之兵、善之善者也。(戦わずに相手を降伏させる戦争こそが最善である)
武力を用いず敵を破るには、戦闘とは別の方法で敵を弱体化させ、相手が目的を遂げないようにする必要がある。
そのために『孫子』は、各種の手段で敵の行動や意思決定をコントロールし、外交を活用して自国に有利な国際情勢をつくり上げ、敵の内情を収集するためのスパイ活動を重視する策を説いている。
必勝の体制をつくるためには、軍事の素人である君主が現場に口出しするマイクロマネジメントは厳禁だ。個人の英雄的行動に頼るのではなく、どんな兵士を率いても勝てる組織をつくる必要もある――。
紀元前の書物であるはずの『孫子』のリアリズムは、21世紀の現代人の目で読んでも頷けるものが多い。
中国は台湾に認知戦を
仕掛けている
近年、中国やロシアなどの権威主義諸国に対する国際的な警戒感が高まるなかで、注目を集めているのが、こうした国家によるディスインフォメーションと呼ばれる攻撃手法だ。
これは、意図的に誤情報を流布することで、西側諸国の世論を混乱させたり社会の分断を煽ったりする情報工作のことである。ロシアが2014年のクリミア危機の際に実際の軍事行動と並行して実施し、成果をあげたことでも知られている(ハイブリッド戦争)。







