ASMLの流儀 抜粋版Photo:123RF

米中が火花を散らす「AI(人工知能)覇権」を巡る産業戦争において、要となるのが半導体サプライチェーンだ。米エヌビディア、台湾TSMC、中国のファーウェイなどが一般にも広く知られるが、彼ら半導体メーカーだけで産業は成り立たない。半導体を製造する装置があってこそだ。世界最大の半導体製造装置メーカーであるオランダのASMLは、最先端の半導体を製造するのに欠かせない極端紫外線(EUV)露光装置で市場を独占。中小企業から巨大企業に変貌を遂げ、今や半導体産業の中核を担う。このASMLの舞台裏を描くノンフィクションの和訳本『FOCUS ASMLの流儀――地球上で最も複雑な装置をめぐる勢力争いの裏側』(マルク・ハインク著、化学工業日報社)の中から、世界最大の半導体受託製造企業であるTSMCとASMLの関係を描いた「第24章 モリスの仲間」を3回にわたって特別公開。最終回は、競合からの引き抜きの誘い、中国共産党の脅威と血なまぐさい話題だ。

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中国企業から引き抜きの誘い
3倍から5倍は簡単に稼げる

 ASMLの収益の約40%は台湾から来ている。ただ、TSMCとASMLの関係がどれほど緊密であっても、オランダ人が他の顧客とEUVの可能性についていろいろ話すことを台湾人は快く思っていない。ASMLの幹部は時々サンディエゴのクアルコムを訪問することがあり、アップルの従業員も時々フェルトホーフェン(編集部注:ASMLの本社がある拠点)に立ち寄ることが知られている。TSMCは主導権を握り続けたいと考えているため、こうした動きは、技術情報漏洩の可能性に対するTSMCの猜疑心を掻き立てるだけだった。

 一方、TSMCの従業員は、ファーウェイやSMICといった中国のハイテク企業から定期的に引き抜きの勧誘を受けている。中国に行けば現在の給与の3倍から5倍は簡単に稼げるが、民主主義国家である台湾に比べると自由ははるかに制限されるだろう。