料理研究家の小林カツ代さん Photo:SANKEI
家電には、ボタンと機能が増え続けている。料理研究家の小林カツ代は、あえて多機能な調理器具に手を出さなかった。一見、機械音痴にも思えるその姿勢は、伝説のテレビ番組『料理の鉄人』における、陳健一との「ジャガイモ」対決で、どのような結果をもたらしたのか。機械が日々複雑化するなか、シンプルさを貫く意味を考え解き明かす。※本稿は、速水健朗『機械ぎらい』(集英社)の一部を抜粋・編集したものです。
人類がボタンから
解放される日は来るのか
21世紀の現代もまだボタンの時代が続いている。リビングに転がっているテレビのリモコンを見てほしい。そこには、赤、青、黄、緑の謎めいたボタンから、あまり押すことのない「画面表示」ボタンまで、数十個もの突起がびっしりと並んでいる。さらに近年では、YouTubeやNetflix、U-NEXTといった動画配信サービスの専用ボタンまでが標準装備されるようになった。そう、ボタンの数は明らかに増えすぎているのだ。
この過密状態にエンジニアも消費者も慣れ切ってしまっているが、リモコンという限られた面積においては、もはや限界だ。これ以上ボタンを増やすためには、デバイスそのものを巨大化させていくしかないのかもしれない。
こうしたボタンの増殖化、それが引き起こす機械の複雑化について考えるにあたり、機械が苦手だったという料理研究家、小林カツ代の話を取り上げてみたい。
小林は「オンとオフしかないミキサーが限界」で、多機能な調理器具には決して手を出さず、いわく「ボタンは2つ以上あったらお手上げ」だったという。もちろん、彼女を単なる機械音痴として片づけることはできない。
小林の出世作となったレシピ「わが道をゆくワンタン」は、具と皮を別々に調理するという独創的な方法で包む手間を省き、家庭料理に新しい風を吹き込んだ。その料理スタイルは極めて合理的だ。手間を惜しみ、省略を厭わない。決して新しい調理器具を頭ごなしに否定するようなタイプではなかったはずだ。







