「本当の色」はどこにある?
─目が捉える黒、脳がつくる白

「Aは黒っぽいグレー、Bは白っぽいグレーだ」

……きっとそう感じられることでしょう。
じつのところ、AとBのマスはどちらも「まったく同じ濃さのグレー」です(A・B以外の部分を隙間なく完全に覆い隠してみるとわかります)。
しかしどうしても、Bのほうが「白っぽく」感じられてしまいますよね。なぜ人間の目には「現実とは異なる色」が見えてしまうのでしょうか?

タネ明かしをしましょう。あなたはこの図から「2つのこと」に気がついていました。
1つめに、Bのマスに、円柱の影が落ちていること。
2つめに、盤面がチェック柄だということです。なのでパターン通りにいけば、Bは「白っぽいグレー」のはずです。
これら2つの情報から、あなたの脳はつぎのように結論づけました。

Bが濃く見えてしまうのは、円柱の影のせいに違いない!

そして、脳内で影の影響を取り除いてしまいました。影の色に惑わされず、盤面のパターン通りに白っぽい色を見ようとしたのです。
これが、実際にはA・Bともに「同じ濃さのグレー」であるにもかかわらず、Aのマスが「黒っぽく」、Bのマスが「白っぽく」感じられてしまう理由です。

この脳の働きは、光や影などの環境要因に惑わされることなく対象を認識するために大いに役に立ちます。しかし裏を返せば、私たちは往々にして「目に映っている本当の色」を見ていないということでもあるのです。

「本当の色」という表現も、あまり適切ではないかもしれません。そもそも科学的にも、色彩は「かたちや重さを伴う物質」ではないからです。
色はあくまでも、脳内で感じられる「感覚」です。光が物体に当たり、反射した波長を視覚で受け止めることによって、その人の脳内で色が「感じられている」にすぎません。

つまり、実物のルーアン大聖堂が「グレー」や「ベージュ」といった固有の色を持っているわけではなく、その時々の天候や見る角度、見る人の状態によって、感じられる色はさまざまであり得ます。

朝と夕方、夏と冬、晴れの日と雨降りの日……。屋外の日光は時間帯や季節、天候などによって刻一刻と移り変わり、一瞬としてまったく同じ状態にはなり得ません。
それでもルーアン大聖堂がいつも同じグレーに見えてしまうのは、さきほどの実験と同様に、「脳」が環境の影響を取り除いたり補正したりしているからです。

「目」が受け取ったものに、「脳」が勝手に加工をしてしまっているのです。