下の図は、1本の線を輪にしたものです。輪の内側にあるのは、顧客の期待が生まれ、体験を通じて結果を得て、感情の記憶=ブランドが積み重なり、次の期待を形作る、というCXのサイクルです。パーパスから行動原則・デザイン原則までの「1本の線」は、始まりと終わりを持つ一方向の構造ではなく、この感情の記憶を守り続けるためにあります。

 この線が通っていると、個々の施策は別々の取り組みではなくなります。広告でつくる期待、ウェブサイトで伝える印象、営業や店舗での対応、問い合わせへの返答、商品を使った後の体験が、同じ方向を向き始めます。

 顧客は、一つ一つの接点を部門ごとに分けて受け取っているわけではありません。それらを通じて「このブランドはこういうものだ」という感情の記憶を積み重ねています。だから、施策同士がつながっていれば、顧客の中に残る記憶も揺らぎにくくなります。

 この1本の線は、現場の判断においては「ガードレール」として機能します。ガードレールとは、現場の自由を奪うものではありません。むしろ、顧客の感情の記憶を傷つけずに、どこまで自律的に動けるかを明確にするものです。 

 何を売り、何を売らないか。どんな依頼を受け、どこから先は断るのか。どこまでが「このブランドらしい」対応で、どこからがそうでないのか。1本の線が明確であるほど、現場はマニュアルにない状況でも、顧客に残したい記憶から逆算して判断できるようになります。

 一本の線はブランドとCXを一体化する上でも効果的な補助線となります。

 顧客の感情の記憶に何を残すのか。

 この問いが共通するため、部門をまたいでも議論の軸がずれないからです。そして顧客の側にもバラバラな施策ではなく、一貫した体験として届くのです。