「仕事ってね、人生そのものだから、山あり谷あり、嵐あり」

「70年生きている僕からすると、趣味はね、趣味にしておいた方がいいと思うな。趣味って楽しいものにしておいた方がいい」

 トヨタ自動車を率いてきた経営者が、「好きなことを仕事にしろ」とは言わなかった。この言葉は夢を潰すものではない。好きなものを嫌いにならないための忠告である。

その趣味は本当に好きか
一生楽しめるか

 趣味は、自分がやりたいときに、自分のやりたい形で楽しめる。仕事は違う。絵が好きでも、描きたくない日に描く。音楽が好きでも、自分が演奏したい曲だけを選べない。ゲームが好きでも、作る側に回れば納期、予算、売上、客の評価がついてくる。料理が好きでも、気分に関係なく同じ味を出し続ける。

 趣味は自分のためにある。仕事は他人とともにある。

 好きなものに値段がつく。売れなければ、力が数字で示される。客から修正を求められ、締め切りに追われる。趣味なら自分が満足すれば終わる。仕事なら相手が満足するまで終わらない。

 豊田は、「その趣味、本当に自分が好きかどうか、一生楽しめるかどうか、その趣味と会話してみてください」と語った。

 本当に続けたいのか。評価され、否定され、退屈な作業を背負っても向き合えるのか。作ることが好きなのか。褒められることが好きなのか。自由に楽しめる時間が好きなのか。仕事になった後も残る「好き」は何なのか。

情熱で選ぶべきか
「自分ができること」で選ぶべきか

 米ジョージタウン大学教授のカル・ニューポートは、2012年の著書『So Good They Can’t Ignore You』で、これと重なる問題を扱った。彼が批判したのは、「まず情熱を見つけ、それに合う仕事を選べば幸せになれる」という「情熱仮説」である。

 ニューポートは、情熱より技能を先に置く。仕事を続け、価値のある技能を身につけ、自分にしかできないことが増える。その結果、仕事への愛着と自由が生まれる。