
1971年4月、日本の自動車業界に長らく課せられてきた“聖域”が解かれようとしていた。資本自由化、つまり外国資本による日本企業への出資解禁である。それまで護送船団的に守られてきたこの業界に、いよいよゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、クライスラーの米国「ビッグ3」が本格上陸する。その前夜、「週刊ダイヤモンド」1971年3月27日号に、トヨタ自動車販売(現トヨタ自動車)社長で「販売の神様」と呼ばれた神谷正太郎(1898年7月9日~1980年12月25日)のインタビューが掲載されている。
神谷は「トヨタ・日産を狙うより、まだ手薄な東洋工業(現マツダ)や中堅メーカーに提携先を求めるだろう」と冷静に読み、「私だったら販売網を狙った」と言い切る。製造設備そのものより、時間をかけねば築けない全国系列の販売網こそが外資の本当の狙いだという指摘は、後年トヨタの強さの源泉が「売る力」にあったことを思えば、実に的を射た視点といえる。神谷はまた、自由化を単なる防衛(受け)ではなく、輸出攻勢に転じる好機(攻め)と捉え、押し寄せる「寡占化の波」への警戒も口にしている。
そして実際、この予見はほぼそのまま現実になった。同年、いすゞ自動車はGMの資本参加(34.2%)を受け入れ、三菱自動車もクライスラーの出資(15%)を仰いで再出発する。東洋工業とフォードの交渉は一度決裂したものの、79年に資本提携として結実した。いずれも、当時経営基盤が相対的に弱かったメーカーである。
一方、トヨタ自動車と日産自動車は外資と組まず、独立路線を貫いた。神谷の言葉を借りれば、彼らは"攻め"に転じる体力を自前で持っていたということになる。皮肉なのは、外資と手を組んだ企業ほど、後にGMやフォードの経営方針への従属や北米事業の見直しに苦しんだ点だ。対照的にトヨタは、84年にGMとの合弁会社NUMMIを設立するが、これは経営権を譲る提携ではなく、対等な立場での生産ノウハウ交換という全く異なる関係だった。
弱者は資本を求めて外資に頼り、強者は独立を守って攻めに転じる――。後から見ると「勝ち組の選択」が、現在進行形で語られた内容となっている。(敬称略)(ダイヤモンド編集部論説委員 深澤 献)
神谷は「トヨタ・日産を狙うより、まだ手薄な東洋工業(現マツダ)や中堅メーカーに提携先を求めるだろう」と冷静に読み、「私だったら販売網を狙った」と言い切る。製造設備そのものより、時間をかけねば築けない全国系列の販売網こそが外資の本当の狙いだという指摘は、後年トヨタの強さの源泉が「売る力」にあったことを思えば、実に的を射た視点といえる。神谷はまた、自由化を単なる防衛(受け)ではなく、輸出攻勢に転じる好機(攻め)と捉え、押し寄せる「寡占化の波」への警戒も口にしている。
そして実際、この予見はほぼそのまま現実になった。同年、いすゞ自動車はGMの資本参加(34.2%)を受け入れ、三菱自動車もクライスラーの出資(15%)を仰いで再出発する。東洋工業とフォードの交渉は一度決裂したものの、79年に資本提携として結実した。いずれも、当時経営基盤が相対的に弱かったメーカーである。
一方、トヨタ自動車と日産自動車は外資と組まず、独立路線を貫いた。神谷の言葉を借りれば、彼らは"攻め"に転じる体力を自前で持っていたということになる。皮肉なのは、外資と手を組んだ企業ほど、後にGMやフォードの経営方針への従属や北米事業の見直しに苦しんだ点だ。対照的にトヨタは、84年にGMとの合弁会社NUMMIを設立するが、これは経営権を譲る提携ではなく、対等な立場での生産ノウハウ交換という全く異なる関係だった。
弱者は資本を求めて外資に頼り、強者は独立を守って攻めに転じる――。後から見ると「勝ち組の選択」が、現在進行形で語られた内容となっている。(敬称略)(ダイヤモンド編集部論説委員 深澤 献)
私がビッグ・スリーだったら
日本の販売網を狙った
――いよいよ、4月から資本の自由化が実施される。このときのために“泣き笑い”の再編劇を繰り返してきた日本の自動車業界ですが、その成果に点数を付けるとすれば、何点ぐらい……。
トヨタだけについていえばすでに3~4年も前から、昭和45(1970)年いっぱいで完了する予定で自由化対策を進めてきたので、100点満点とまではいかんとしても、だいたいの準備は、できたと思っている。
よその会社は、それぞれ立場が違うから、なんとも言えんが、業界全体とすれば、かなり遅れが目立っているようです。
――結局、三菱自動車とクライスラーが提携し、フォード、GMも、それぞれ東洋工業、いすゞと提携交渉中ということで、ビッグ・スリーが顔をそろえることになったが……。
「週刊ダイヤモンド」1971年3月27日号
「これほど大衆車市場として拡大した日本市場を、見逃すはずはなかろう」ということで、ビッグ・スリーが、日本上陸を狙ってくることは、むしろ当然でしょうね。
しかも、ヨーロッパ諸国への進出と違い、日本進出に対する彼らの狙いは、日本市場でのシェア獲得のほかに日本を拠点として東南アジア、そして中国市場を狙うといった、いわば“含み”があるようですね。







