虎太郎がお気の毒

 虎太郎(小林虎之介)だ。

 彼が恵風看護婦会に薬を届けに来ている。

 りんに会えることを期待しているようだが、あいにく、留守。

 虎太郎が帰ったあと、「ままならないわね」と、しのぶが言う。ということは、りんとシマケンの関係が進展したことを虎太郎は知らないようだ。なおかつ、横沢(井上祐貴)というライバルが風のように現れ風のように去っていったことも知らないのだろう。お気の毒でならない。

 看護婦会の帰り道、虎太郎はりんとシマケンの仲むつまじいところを目撃してしまう。

 都合良くデート現場を目撃したうえ、都合良く、りんが席を外す。脚本協力が入ろうが入るまいが、都合でちゃっちゃと物事が動いていくことは変わらない。

 虎太郎はひとりになったシマケンに言う。

「付き合ってください」

 ほんの少しだけ間が空く。これじゃあ告白みたいだ。

「いや、付き合え」

 当然、告白ではない。

 虎太郎はシマケンの家で飲む。自分の家のほうがたぶん、きれいだと思うが、そこはセットの都合であろう。

 あるいは、シマケンがどういう人が知りたくて、あなたの家で飲みましょうとなったのかもしれない。

 本だけしかない部屋を見回して、自分との違いを実感する虎太郎。

「(仕事に夢をもつこと)そんなの考えたこともないなー。仕事は好きでも嫌いでもない。俺は学がないから」

 東京の人並みになるのも精一杯だったと回想する虎太郎。がんばって働いて、いつかりんと……と思っていたのに。

 そこでシマケンはこう返す。

「りんさんはたくましいですよね」

 つまり、りんは虎太郎が頑張って働いて、りんを食べさせてくれることを望まず、自分で身を立てているという意味だ。ついでに言えば、収入のないシマケンを支えてくれているということだ。

「竹内さんのように僕はなれないんです。書くのをやめてりんさんのために働くこともできない。小説家として世に出たいという我欲の塊で。かと言って彼女の幸せを遠くから祈るのも嫌で」

 シマケンは、自分のどうしようもなさを語るが、虎太郎は自分に勝ち目がないことを痛感してしまう。

「いっそりんに養われて平気なクズだったら俺も笑えるのに」

 せめて嘲笑(あざわら)いたいのに、それもできない。「じゃあ努力しろ。血反吐(ちへど)吐くまで努力しろ」と発破をかけることしかできない。

 たぶんこのとき、シマケンなりに努力して小説を書いている。

 その結果、ついに新聞連載が決まった。

「よし!よし!」

 シマケンの笑顔エンド。長いことシマケンを見てきて、はじめてホッとしたシーンのように思う。りんとのやりとりよりも彼の仕事が心配だったから。

 これで虎太郎にも自信を持って「りんさんは僕にまかせてください」と言えるだろうか。

「幸せな凡人」になれる人が持つ〈意外な特徴〉〈風、薫る第101回〉
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