大腸は、内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜という5つの層で成り立っているのですが、手術が始まってお腹の中を見てみると、がんの患部が、一番外側の壁である漿膜を破り、少し外から見えるような状態でした。内視鏡検査では基本的に大腸の内側の壁しか見えないため、実際の状態を確認したところ、思ったより進行していたということは、しばしばあります。

 がんは、進行すればするほど、臓器の浅いところから深いところに食い込んでいくため、主治医団が「これは、まずいな」と顔を見合わせるような状況でした。これは、手術が困難になるという意味での「まずい」ではありません。進行ステージが上がると、手術後の再発率も上がるということが、頭をよぎったからです。

人工肛門を作るべきか
医師団の判断は割れた

 がんの大きさが子どもの握りこぶし程度にまで成長していたため、血流を考慮し、大腸を13センチ程度、切除することになりました。

 問題は、切除すべき箇所が、肛門からわずか1センチという場所だったことです。肛門からギリギリのところで腸と腸をつなぐことになるため、人工肛門を造設するか、しないかについて、主治医団の中でも意見が分かれました。

 消化器外科医のセオリーからすると、患部が肛門から5センチの場所であれば、人工肛門を造設しないという選択はあります。

 ただ、肛門から3センチ以内の場所となると、縫合不全による便の漏れなどのリスクが一気に高くなってしまうため、人工肛門の可能性は高まります。ゆえに、1センチの場所を切除する手術で、人工肛門を造設しないという判断は通常ではあり得ないことでした。

 手術中、医師同士で何度も議論が交わされたことを今でも思い出します。

私「本当にストーマ(人工肛門)を作らないんですか?」

執刀医「作らない」

 私としては、手術後の経過を診る立場としての意見もありました。安全面を考慮して、一時的にでも人工肛門を造設すべきではないかと本気で思っていたのです。