手術後に合併症などが発生して、あらためて人工肛門を造設しなければならなくなるような事態も想定できたため、執刀医に何度も確認しました。手術を見ていた麻酔科の先生も、その選択に驚いていたほどです。

麻酔担当医「ストーマ、ほんまに作らへんの?」「ほんまにいいんですか?」

執刀医「何かあっても責任はとる」「この手術にかける」

 人工肛門を造設するには、腸を外に出すため、腹筋に穴を開けなければなりません。原口さんがプロ野球選手として復帰したときに、腹筋に力が入らないという事態を避けるためにも、絶対に人工肛門にしてはいけないという強い思いが、執刀医にあったのだと思います。

 決してギャンブルというわけではありません。確かな実力があってこその判断だったと思います。

発達しすぎたふくらはぎが招いた
コンパートメント症候群とは

 手術後も、一筋縄ではいきませんでした。弱音を吐かない原口さんが、足がとてつもなく痛いと言いだしたのです。

 コンパートメント症候群。地震で瓦礫に足を挟まれたときなどに現れる症状で、患部が圧迫されて血栓ができると、命にも関わる緊急事態でした。

 手術の合併症として懸念はしていましたが、普通では起こり得ないことです。原口さんのふくらはぎの筋肉が発達しすぎていたため、足を手術台に固定する器具とのサイズが合わず、手術中に開脚した状態で、足を圧迫し続ける状態になってしまったことで起こったアクシデントでした(編集部注/大腸がんの手術では、あおむけの状態で両ひざを曲げ、両足を開いて高く上げて固定する)。

 コンパートメント症候群となり、筋肉の圧が高まりすぎてしまうと、最悪の場合は、ふくらはぎを切開して圧を逃がすという処置が必要になります。整形外科の専門医をすぐに呼んで、事なきを得ましたが、一歩間違えると、以前のように走れなくなってしまうという可能性もありました。

 肛門からわずか1センチの縫合面については、経過観察をしながらも不安しかありませんでした。医者の立場からすれば、リハビリで動きすぎることよりも、まだ完全に傷がくっついていない状態で便が漏れだすということが最大の懸念。