2025年、優勝旅行でハワイに行ったときも、楽しみつつも、知らない場所だと、次はどこでトイレに行けるかなと考えてしまう。
この不安はこれからも消えることはないし、生活の一部として受け入れながらうまくつきあっていくしかないと思っている。
走るのが苦手な原口氏が
フルマラソン挑戦を決めた理由
「フルマラソンに挑戦してみませんか?」という打診があったのは、2025年の11月半ばだった。約3万人の市民ランナーが集まる大阪マラソンに、テレビ番組の企画で、感謝の思いをもってフルマラソンに挑戦する人を探しているという。
本番の2026年2月22日まで約3カ月。
実は、走ることは小さいころから苦手だった。小学校の駅伝大会に出場することになり、当日の朝にお腹が痛くなってチームに迷惑をかけてしまったこともある。高校時代も得意とは言えず、チームメイトに助けてもらいながらなんとかこなしていた。
そんな自分がフルマラソンに出ることになるとは思ってもいなかった。野球をやめてから漠然とした目標は持ちつつ、具体的な目標がなかった。自分にとってもいいチャレンジにもなるし、何より自分が走ることで多くのファンに感謝の気持ちを伝えられたらと考え、この企画に挑戦させてもらうことにした。
テレビ番組の生放送も終わった25キロあたりを過ぎてからは、足に痛みが出てきた。かなり走った感覚があっても、実際には距離が進んでいなかった。
38キロ付近では苦しさがピークに達し、久しぶりに自分のメンタルの弱さを感じた。あらためてフルマラソンは1人では完走できないし、1人では生きていけないなと実感した。
大腸がんと闘う患者さんに
勇気を与える存在になりたい
ずっと笑顔で走っていたのだが、ひとつだけ心配していることがあった。トイレの問題だ。
走っている途中に、トイレが我慢できなくなったらどうしようという不安があった。練習でフルマラソンの半分の距離を走ったときは、途中でトイレに行かずに済んだ。
大腸がんの手術も立ち会ってくれた主治医の先生からは、フルマラソンを走るうえでは「トイレを気にして水分補給をせず脱水症状になるより、回数が増えてもどんどん飲んだほうがいい」というアドバイスをいただいていた。
先述したが、大腸がんの手術後、トイレの回数が増えるという悩みは、多くの患者さんが抱えている。そんな中でフルマラソンに挑戦することは、「こんなこともできるようになるんだ」と勇気を与えられるとも言ってくれた。
その話を聞いて、すごく気が楽になった。もうトイレの我慢や心配はしないようにしようと思った。トイレの回数が多いことを気にするのではなく、それを受け入れたうえで、自然にふるまえばいいのだと思えるようになった。
実際、走っている間は、サポートスタッフから勧められるまま、栄養補給や水分補給をした。途中で3回トイレに行ったが、終盤にはお腹が少しゆるくなった感じがあった。
『道なき道を』(原口文仁、集英社)
39キロあたりで厳しい感じになったときには、「もう残り3キロだから、我慢しようか」とも思ったが、思い直してトイレに立ち寄った。
肛門から排便するという機能を、必死の思いで自分に残してくれた主治医の先生たちの思いを知ると、トイレの回数が増えたことなど、なんでもないと思えたからだ。
初挑戦したフルマラソンは5時間24分17秒で、なんとか走りきれた。フィニッシュ地点では、家族が出迎えてくれ、3人の娘たちの手作りメダルを首にかけてもらった。今までもらったどのメダルよりもうれしかった。







