「僕ね、そうじゃなくて、A定食とB定食を作れる素材を持ってこいよっていうの」そして、「素材を持ってきたら料理は僕が作るよ」と続けた。
完成した提案書に
埋め込まれている判断
部下がAとBまで作り込んだ時点で、かなりの意思決定が終わってしまっている。何が問題だと考えたのか。誰の話を聞いたのか。どの数字を重く見たのか。どんな案を「現実的ではない」と捨てたのか。上司の机にAとBが置かれる前に、CもDもEも消えている。
最後に上司がAへ丸を付けても、部下が作った枠の中で選んだだけだ。豊田の発言を私なりに言い換えれば、メニューを選ぶ前に厨房(ちゅうぼう)を見せてほしい、ということだ。
この話を聞いて思い出したのが、オハイオ州立大学フィッシャー・カレッジ・オブ・ビジネスで意思決定を研究したポール・C・ナットである。ナットは20年以上かけて、企業や行政など400件を超える実際の意思決定を集め、成功と失敗を分けるものを調べた。
選択肢を狭めると失敗しやすい
研究が明らかにしたこと
論文の題名は強烈である。原題は「Surprising but true: Half the decisions in organizations fail」。日本語に訳せば「驚くべきだが本当だ――組織の意思決定の半分は失敗する」。米国とカナダの中・大規模組織の358件を調べると、失敗には共通した癖があった。責任者が解決策を押しつける。代わりの案を探す範囲を狭める。権力で実行を進める。
逆にうまくいった意思決定では、目的を先にはっきりさせ、解決策を広く探し、重要な関係者を参加させていた。
ナットはもう一つの論文「戦略的意思決定における代替案探索の拡大」(Expanding the search for alternatives during strategic decision-making)で、この問題をさらに「選択肢の探し方」から掘り下げた。判断を急ぎ、探索の範囲を自分で狭めると失敗しやすい。そこで関係者の関心を広く捉え、目的を明確にし、行動できる範囲を広げて代替案を探す必要を説いた。
ナットが豊田の発言を研究したわけではない。それでも、2人が指している場所はよく似ている。AとBを精密に比較する前に、「なぜAとBなのか」を疑え、という点だ。







