たとえば、「広告費を増やすか、減らすか」と聞かれれば会議は広告費の話になる。だが、売れない原因は商品そのものかもしれない。「東京に出店するか、大阪に出店するか」と聞かれれば家賃や市場規模を比べるが、答えは「どちらにも出さない」かもしれない。

 AとBを詳しく調べるほど、「AかBか」という問い自体を疑いにくくなる。完成した提案書には、何を載せ、何を捨てたかという作成者の判断まで埋め込まれている。資料が立派になるほど、その枠も正しく見える。だが、比較表の精度が高いことと、問いの立て方が正しいことは別問題である。間違った2択を正確に比べても、いい意思決定にはならない。

資料と現場の
ギャップを見る

 だから豊田は、特定の誰かに相談するのではなく、普段からさまざまな人の意見を聞いておくと言う。

 豊田は「誰に相談っていうよりも、普段からいろんな人のね、意見を聞いとく」と語っている。そうすると、「書類とか提案書に上がってきた時と、自分がリアルな世界を見てきた時のね、ギャップを見る」ことができる。そして豊田は、「それがね、僕の判断基準です」と明言した。

 資料上は正しくても、現場で見た景色と違ったり、違和感があれば、「なぜこの2案しかないのか」と聞ける。資料しか見ていないトップは、資料を作った人が設定した世界の中でしか判断できない。

 もっとも、豊田はA案やB案を必ず否定するわけでもない。「これだったらA定(編集部注:A定食)で解決できるな、みんな笑顔になるだろうなと思ったらA定(編集部注:A定食を)選びます」と話している。

 それでも「えてしてそうじゃない」。そんな時には、「もう一回素材見せてよ、僕がメニュー作るから」というところに戻るという。

 そして豊田は、トップのもう一つの弱点も口にした。

「上司は部下のことを
理解するのに3年かかる」

「実はね、本当に孤独なんですよね」

 豊田は、会長という立場では「いくら僕が下手に回っても」「プレッシャーをなくしてあげても」、「やっぱり忖度(そんたく)しちゃうんですよ」と語っている。

 この発言を踏まえれば、部下は上司の好みをすぐ覚えて、提案する前に選択肢のCやDを捨て始める。トップが何も命令していなくても、トップ好みのAとBだけが届くようになる。

 その危うさを象徴するように、豊田はこう話した。