「上司は部下のことを理解するのに3年かかります。部下は上司のことを3分で理解しちゃいます」
ここから先も私の考察だが、立場が上がるほど、周囲の忖度(そんたく)によって本音や異論が届きにくくなる。権限が大きいほど、放っておけば見える世界は狭くなる。だからこそ豊田は「素材」を重視するのだろう。上司向けに調理された料理だけでなく、現場の事実や都合の悪い数字まで持ってきてもらう。
トップの仕事は
決めて責任を取ること
豊田は自分の仕事を「あくまでも決めることと責任を取ること」だと話す。「例えば明日なんかしなきゃいけないって時には、ある程度ね、すぐ効果が出るような答えをする」。1年後の話なら、「人間の考え方とか人間の経験って本当に多様だから」、多くの人からアイデアを集める。
豊田自身も、「アイデアっていうのはね、無尽蔵にいろんな人から言ってもらった方がいいんだよね」と語っている。つまり、アイデアを全部トップが生み出す必要はない。多くの素材を集め、最後に決め、その決定の責任を取る。それが豊田の語る会長の仕事なのである。
多くの会社では、ここが逆転している。部下にA案とB案を作らせ、上司はどちらかに丸を付ける。失敗すれば「なぜこんな案を出したのか」と言う。これでは決裁者はいても、意思決定者はいない。
AかBかの前に
問い直すべきこと
「Aにしますか、Bにしますか」
そう聞かれた時、Aを選ぶのは簡単である。難しいのは、その二つがどこから出てきたのかを見ることだ。パスタか、カレーライスか。そんな問いを出された時こそ、メニューを閉じる。豊田の言葉に戻れば、「A定食とB定食を作れる素材を持ってこいよ」である。
「素材を持ってきたら料理は僕が作るよ」。豊田章男の意思決定は、AとBのどちらかを選ぶところからではなく、その2択が作られる前から始まっているのだろう。








