世間から見れば「良い暮らし」。それなのに、原因不明の不調がどんどんひどくなっていく――。『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さんは、東京の高級住宅街に住んでいた頃、日記に「人生の何を修正したらいいのかわからない」と書き残すほど悩んでいたといいます。その袋小路を抜け出すきっかけは、意外にも「引っ越し」でした。山口さんに、居場所を変えることの本当の意味を聞きました。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)
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「美味しい立地」の賞味期限は10年
――山口さんは、「しかるべき時に、しかるべき場所にいること」が重要だと考えるのがポジショニング理論だとおっしゃっています。ポジショニング理論では、企業の競争優位は「立地や環境」に大きく左右されると考えるのでしたよね。「しかるべき時」というのは、どういうことでしょうか。
山口周氏(以下、山口):永続的なポジショニングはないということに注意してほしいのです。
1980年代の世界的ベストセラー『エクセレント・カンパニー』で「素晴らしい」企業として紹介された43社の多くは、10年と経たずに困難な状況に陥りました。著者のトム・ピータース自身も「エクセレンシーは永続的なものではない」と認めています。
ポジショニング理論の始祖であるマイケル・ポーターが、著書でポジショニング戦略のお手本として例示した映画館チェーンも、数年後には破綻してしまいました。
つまり「美味しい立地」にはせいぜい10年程度の賞味期限しかないんです。私たちの脳みそは相当にポンコツですが、「あの立地はどうも美味しいらしい」ということを見抜けないほどマヌケではありませんから。
不定愁訴に悩まされた「良い暮らし」
――「良い場所だ」と思っても、これがずっと続くとは考えないほうがいいわけですね。山口さんご自身も、大きく居場所を変えた経験がおありだとか。
山口:私は東京生まれの横浜育ちで、就職してからはずっと世田谷周辺に住んでいました。付近はいわゆる高級住宅街で、世間一般からすれば「良い暮らし」に見えていたと思います。しかし私自身は、年を追うごとにひどくなる不定愁訴にずっと悩まされていました。当時の日記には「人生の何を修正したらいいのかわからない」というコメントが残っていますから、それなりに深刻だったのでしょうね。
いまから考えれば、当時の私は、自分が心から望んでいたものではなく、世間一般に「良い」とされるもの、成功者の証とされるものを、ロールプレイングゲームのアイテムのように、ひとつまたひとつと獲得していただけだったように思います。
そんなある時、ふと「海のそばに住む」ことを思いつき、袋小路の人生を変えるには「これしかない」と直感しました。周囲からは何年もかけてリサーチすべきだと忠告されましたが、直感が絶対に正しいという確信があったので、思い立って数週間後には葉山の土地を見つけて引っ越してしまいました。あのタイミングで移住して本当に良かったと思っています。
居場所が変われば、働き方も変わる
――移住して、働き方はどう変わりましたか?
山口:それまで続けてきた「土日のどちらかを必ず仕事に使う」習慣を完全に止め、子どものスポーツや家族のイベント、地元コミュニティの仲間との集まりに使うようになりました。当然、コンサルティングファームでの評価や立場には好ましくない影響が出ますが、こちらは「子どもと過ごす時間の方がクライアントや上司と過ごす時間よりはるかに大事だもんね」と割り切っているので何とも思いませんでした。
結局この転機が、外資系コンサルティング会社のパートナーという立場を捨て、独立研究者・著作家という新しい立場への移行につながっていったのです。
友人にも似た例があります。マンハッタンの弁護士事務所で数億円の年収を得ながら「辞めたい」と愚痴っていた友人は、誘われて参加したアパラチア山脈のトレイルで紅葉の山々を眺めた瞬間、「自分がいるべき場所はここだ」と確信し、山中の事務所に転職しました。「年収は10分の1になったけど全く後悔はない」そうです。
共通するのは、どこが最適な場所かは先見的にはわからないということです。今いる場所から動いて、色々な場所を見てみないと、自分の立地は見つけられないのです。





