ワインの2大銘醸地として知られるフランスの「ボルドー」と「ブルゴーニュ」。どちらも高級ワインの代名詞として知られているが、実は価格の決まり方や市場への出回り方には決定的な違いがある。世界中の愛好家や投資家が熱狂する裏側には、どのような経済のカラクリが隠されているのか。ワイン専門家である水上彩の著書『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』の中から、ビジネスパーソンも知っておきたい「ワインの価格が決まる市場原理」について解説する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

【ワインの教養】ボルドーとブルゴーニュ、高いのはどっち?Photo: Adobe Stock

高級ワインの代名詞、買いやすいのはどっち?

 ワインに詳しくない人でも、「ボルドー」「ブルゴーニュ」という名前は耳にしたことがあるはずだ。

 どちらも世界最高峰のワインを生み出す産地だが、価格の付き方には大きな違いがある。

 ワインジャーナリストの水上彩氏も、著書『ワインの世界地図』の中で、両者の価格差について次のように述べている。

ボルドー=高級というイメージがありますが、昨今のブルゴーニュの高騰ぶりに比べると、比較的リーズナブルにすら感じられます。
1本数百万円もするブルゴーニュの特級ワインがある一方、ボルドーの1級シャトーは10万円程度から。
ボルドーは「頑張れば買えるかも?」という希望が持てる価格帯といえるでしょう。

――『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』より

 もちろん10万円も十分に高額だが、数百万円まで跳ね上がるブルゴーニュと比べると、ボルドーにはまだ「手の届く高級品」という側面が残っているのだ。

価格差を生み出す「生産規模」の違い

 では、同じフランスのトップワインでありながら、なぜこれほどの価格差が生まれるのだろうか。

 著者は、その背景にある「市場原理」「生産規模」の違いについて解説している。

この価格差は市場原理による結果です。右岸のガレージワインのように、生産量が極めて少ないワインは別として、ボルドーは生産規模が非常に大きいのです。
例えば〈シャトー・ムートン・ロートシルト〉や〈シャトー・マルゴー〉といった1級シャトーでも、年間約15万~30万本という単位で造られます。
――『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』より

 ボルドーの有名シャトーは、巨大な資本のもとで広大な畑を所有し、安定した量を世界中に供給するビジネスモデルを築き上げている。

 だからこそ、世界中で取引されても、ある程度は価格の上限が保たれているのだ。

異常な高騰を招く「構造的な希少性」

 対照的に、ブルゴーニュの価格高騰を引き起こしているのは、その圧倒的な「少なさ」にある。

 著者は、世界で最も高価なワインの一つである「ロマネ・コンティ」を例に挙げ、次のように語る。

ボルドーに対してブルゴーニュは数千本単位。
特級畑ロマネ・コンティの広さは、約1.8ヘクタールで、東京ドームのグラウンドより少し広い程度の小さな区画は、中世からほとんど変わっていません。
どれだけ億万長者が増えても、年間本数は変わらず約5000~6000本です。
供給が増えないのに、需要が爆発し続ける。
この構造的な希少性と人気の集中が、驚異的な価格を生んでいるのです。
――『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』より

 土地の広さが限られている以上、どんなに最新技術を導入しても生産量を増やすことはできない。

 ワインの価格を決めているのは、単なる味の好みだけではなく、需要と供給という冷徹なビジネスのルールだ。

 こうした背景を知っておくことも、大人のビジネスパーソンとしての立派な教養と言えるだろう。

水上 彩(みずかみ・あや)

ワインジャーナリスト/コラムニスト
1986年生まれ、神奈川県鎌倉市育ち。お茶の水女子大学理学部卒業後、大手通信企業を経てワイン業界へ。世界最大のワイン教育機関WSETが認定する、国内でも取得者の少ない最難関資格「Level 4 Diploma」を保持。
『Forbes JAPAN』オフィシャルコラムニストとして、ワインをビジネスや文化の視点から紐解く一方、国内外の産地を精力的に訪問し、ストーリーを丁寧に紡ぐ執筆活動を展開。スーパーで手に入るデイリーワインからハレの日の1本まで等しく愛し、初心者目線の解説に定評がある。また、茶道や着物を日常に取り入れたライフスタイルを実践し、ワインと日本の美意識を交差させた独自の楽しみ方を発信している。趣味はアルゼンチンタンゴ。