部下の「しんどい」「モチベーションが上がらない」といった感情のノイズにいちいち付き合い、ご機嫌取りや愚痴聞きに時間をすり潰す。そんな「親身で優しい上司」の振る舞いが、いかにチームの自立を阻み、優秀な新人を辞めさせているかに多くのベテランは気づいていません。この連載では、書籍『リーダーの仮面』をベースに、全ビジネスパーソンに必須の「人間の行動原理」と、感情のノイズを完全に排して「権限」を与えることの重要性について解説する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

50代でチームの離職率を高めている管理職がやってしまっていること・ワースト1Photo: Adobe Stock

「相談に乗る上司」が組織を殺す

 50代のベテラン管理職に最も多く見られる致命的なエラー。

 それは、部下から「◯◯さんが苦手なんです」「この仕事は今の私の価値観に合いません」といった相談をされた際に、

「わかるよ、その気持ち。一緒に飲みに行って腹を割って話そう」
「上が厳しいのは仕方ないから、僕がうまく間を取り持ってあげるよ」

 と、部下の感情に深く寄り添ってしまうことです。

 一見、これは包容力のある素晴らしい上司の姿に見えます。

 しかし、これこそが「部下に頼られたい」という自分自身の自尊心を満たすための、極めて無責任で罪深い行為です

 上司がお伺いを受け入れ、いつまでも手取り足取り指示を出したり、部下の仕事を肩代わりしたりしていると、部下は「お伺いを立てないと動けない無能」へと退化していきます。

 結果として成長環境を奪われた意欲の高い若手から順番に、チームに見切りをつけて離職していくのです。

「頼られたい」という自尊心

パーフェクトな意思決定』という本で私は、上司が部下の権限を奪い、依存関係を築いてしまう「優しさの病」について、次のように厳しく指摘しています。

権限を与えないと何が起こるでしょうか。
そこには、「自尊心」が絡んでいます。
人は「頼られたい生き物」
「◯◯をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
とお伺いを立てられると、あなたなら、どう思うでしょう。
きっと、「自分が重要な立場にいる」という優越感を感じることでしょう。
頼りにされると、権力を持っている錯覚を覚えます。
ここで自尊心が満たされます。
その状態は、非常に気持ちいいことでしょう。
「あの部下も、この会社も、自分がいなきゃダメだよな」
という錯覚を起こす。
実際は、そんなことはないのに。
そして、その状態が続くと、いつまで経っても、部下は成長しません。
これが組織全体の成長を止めるのです。
権限を与えないのは、それだけで罪深いことです。
――『パーフェクトな意思決定』より

 部下からの「お伺い」に安易に答えるのは、部下の失敗する経験と試行錯誤の機会を奪う「免責」の温床でしかありません。

承認欲求を捨てよう

 部下を本当に一人前のプロへと育て上げるためには、上司は「好かれたい」「頼りにされたい」という個人的な承認欲求を捨てなければなりません。

 だからこそ、リーダーは「リーダーの仮面」をかぶる必要があります。

 感情的な愚痴や相談の「ノイズ」を仮面で完全にスルーし、

「あなたの責任と権限はここまでです。その範囲内において、どうすべきかは自分で決定して実行してください。金曜日の17時に結果だけを報告するように」

 と、無機質な距離感を保って突き放すのです。

 部下に頼られる心地よさという「依存の麻薬」を断ち切り、厳しくもフェアな成長の場を提供すること。

 それこそが、何歳になってもメンバーを惹きつけ、離職率をゼロにしてチームのパフォーマンスを最大化するリーダーの覚悟なのです。