相手を「論破」した瞬間に、実はコミュニケーションとしての敗北が始まっています。

 なぜなら、人は論理(ロジック)で納得しても、感情(エモーション)が動かなければ、リスクを取ってまで行動を変えることはないからです。

 相手の矛盾を突き、完璧なロジックで黙らせる。その瞬間は、「自分の正しさ」証明されたと感じ、一時の達成感を得られるかもしれません。

 しかしながら、論破された相手の心には、「負かされた」という負の感情と、プライドを傷つけられた痛みだけが残ります。そんな相手が、翌日からあなたの掲げる理想のために汗をかいてくれるはずがありません。

相手を言い負かすのではなく
共鳴する「応援団」をつくる

『語りの牙 論理と感情をつなぎ、確実に刺す全技術』書影語りの牙 論理と感情をつなぎ、確実に刺す全技術』(伊藤羊一、朝日新聞出版)

 なぜ「論理」という強固な骨組みに、「感情」という体温を宿らせることが最強の戦略になるのか、その本質を解き明かしていきます。それは相手を言い負かすための技術ではなく、相手と深い場所で共鳴し、共に未来を切り拓く「応援団」をつくるための、誠実な牙の研ぎ方です。

 論理(左脳)は相手に「納得」や「信頼」の土台を与えますが、最後の一歩を踏み出させるのは、その人の信条や生き方に「フィット」するかどうかという感情の領域です。

 真に強い伝え手は、ロジックを使って相手を追い詰めるのではなく、ロジックという確かな地図を提示した上で、最後は「あなたの力が必要なんです」という熱い意志を添えます。自分の人生を語ることで、相手を惹ひきつける「磁石」になります。

 相手を言い負かすことを手放し、相手が「この人と一緒に未来を見たい」と思える余白をあえてつくる。対話が終わった後に相手があなたの「応援団」に変わっている状態こそが、私たちが目指すべきゴールなのです。