『語りの牙 論理と感情をつなぎ、確実に刺す全技術』(伊藤羊一、朝日新聞出版)
たとえば、「香りは記憶を呼び覚ます」ということを説明するためのたとえ話をするとします。この一文だけでは素通りされてしまうかもしれませんが、目の前の相手に合わせて「具体」を追加することで、瞬時に相手を振り向かせて波形を合わせる強力なフックへと変わります。
例:相手が20代の女性であれば……「街角ですれ違った人が、かつて好きだった人と同じ香水の匂いをさせていたとき、一瞬で当時の記憶がフラッシュバックする。そんな経験、ありませんか?」と問いかける。
例:相手が若手の体育会系ビジネスパーソンであれば……「夏の午後、夕立が上がった後の土の匂い。あれを嗅いだ瞬間に、部活動に明け暮れた夏休みを思い出しませんか?あの感覚です」と伝える。
例:相手がベテランの文系シニアであれば……「古本屋に足を踏み入れたときの、あの古い紙の匂い。一瞬で学生時代に通った神田神保町の風景が浮かんでくる。そんな風に、香りはロジックを超えて脳を刺激するんです」と語る。
目の前の相手を見極めて
自分の言葉を「牙」にする
目の前の相手の属性や好みに合わせてシーン描写を細かく変えていく。そんなチューニング作業が、実はとても大事なのです。
もし私が、若手の前で「神保町の古本屋」の話ばかりしていたら、彼らは「自分には関係ない話だ」と、心のシャッターを閉ざしてしまうでしょう。
「あ、それ知ってる!」「その感覚、よく分かる!」という共感が生まれた瞬間、相手の「受け入れ態勢」の波形が整います。この波形が合致したときに初めて、あなたの言葉は相手の心に届く「牙」へと姿を変えていくのです。







