マイクを持って人前で話すビジネスマン写真はイメージです Photo:PIXTA

職場で周囲を巻き込みたくても「自分には役職も権限もないから」と諦めてしまう人は少なくない。確かに、肩書は人を動かすうえで大きな力を持つ。しかし、本当にそれだけが人に影響を与える手段なのだろうか。人を動かすために必要な視点とは?※本稿は、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長の伊藤羊一『語りの牙 論理と感情をつなぎ、確実に刺す全技術』(朝日新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。

正しい情報を伝えるだけで
人の行動は変えられるのか

 コミュニケーションにおいて、私たちが最も陥りやすい罠。それは「正しい情報を整理して届けさえすれば、人は動く」という幻想です。

 今の時代、正しい情報を整理して届けるだけなら、AIのほうがはるかに高い精度で、しかも一瞬でやってのけます。しかし、どれほど正確なデータが並んでいても、そこに話し手の「意志」や「情熱」が介在しなければ、相手は「理解」はしても「行動」までは起こしてくれません。

 AIを駆使して精緻に組み上げたピラミッド構造のロジックだけで、人が動かないのはなぜなのか。その鍵を握るのが「身体性」です。

 私が考える身体性とは、自らの五感を研ぎ澄ませ、相手が置かれている状況や心の機微を、一切の妥協なく全身で受け止めることを指します。

 たとえば、私は講演や会議の場に向かう道中、その街の空気感や人々の表情、場の熱量をできるだけ五感でキャッチします。

「今日の聴衆は、少し疲れているかもしれない」「このチームのメンバーは、新しい挑戦にどこか不安を感じているのではないか」