世界1200都市を訪れ、1万冊超を読破した“現代の知の巨人”出口治明元APU学長。宮部みゆき氏などから絶賛されている出口氏の『哲学と宗教全史』をもとに、哲学と宗教の視点から探る「ストア派ゼノンの哲学」とは? ライターの照宮遼子氏がレポートする。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)

【哲学と宗教】なにげない一言がグサリと刺さったとき、どうしたらいいか? ストア派のゼノン先生、教えてください!Photo: Adobe Stock

なぜか引っかかる一言

 会社員時代、書類の処理でわからない箇所があり、先輩に聞きに行った。
 そこで返ってきたのは「そんなことも知らないの」という一言だった。
 決して強く怒鳴られたわけではない。長く説教されたわけでもない。けれど、その短い言葉だけが、しばらく頭の中に残った。

 席に戻り、書類を直し、次の作業に移っても、さっきの言葉がふっと浮かんでくる。
 先輩にとっては、なにげない一言だったのかもしれない。
 なのに、なぜここまで引っかかるのだろう。

ゼノンが教えてくれる「感情との向き合い方」

 他人の一言で心がざわつくとき、ゼノン(BC335~BC263)にはじまるストア派哲学は、感情に流されずに生きるための視点を示してくれる。
『哲学と宗教全史』(出口治明著)にはこうある。

生きる知恵を傾け、悪を排除して、徳を実践し、賢者となって心の平静を得るために、人間はロゴス(理性)を持っている。このロゴスの力で、心に波風を立てるパトス(激情、情熱、情念)に打ち勝つのだ。それが幸福につながる。
――『哲学と宗教全史』より

 ストア派は、人間には理性が備わっており、誰でも意識的に徳を追求できると考えた。
 幸福は、思い通りの出来事が続くことではなく、与えられた状況の中で自分のあり方を整えることにある。

 ここでいう理性は、怒りや悔しさをなくす力ではない。感情が湧いたときにすぐ反応せず、自分の状態を一度見つめるところに、心の平静を保つ手がかりがある。

感情に振り回されやすい人も変わる!

 いまの時代、他人の言葉を気にしないで生きることは難しい。
 けれど、嫌な一言を何度も思い返していると、自分の時間までその言葉に奪われてしまう。
 大切なのは、感情が動かない人になることではない。感情が動いたあとで、自分をどう立て直すかである。

 本書は、時代を越えて残ってきた思想の中に、今の私たちが抱える悩みを考える手がかりがあることを示してくれる。なにげない一言に心を乱されやすい人も、自分を見失わずに生きるための考え方に出会えるかもしれない。