Photo:Wong Yu Liang/gettyimages
「台湾有事」は、起きるのか、起きないのか。その議論ばかりが注目されがちだ。だが、もし中国による台湾統一が現実になれば、本当に難しいのは「その後」かもしれない。台湾の政治や社会だけでなく、日本や世界にも新たな現実が突きつけられる。台湾が陥落した世界に、私たちはどう備えておくべきなのか。※本稿は、国際政治学者の佐々木れな『自滅する米中』(SBクリエイティブ)一部を抜粋・編集したものです。
統一後、台湾の民主主義と
経済はどう変わるのか
台湾が中国に統一された後、最も直接的な影響を受けるのは、当然だが台湾内部の政治・社会構造である。統一のシナリオが何であれ、最終的に中国共産党の支配体制に組み込まれるという点では変わらない。
統一が実現した瞬間から、台湾の立法院・監察院・司法院といった民主的機関はその役割を大幅に縮小されるか、あるいは形骸化した地方自治機関へと転換されるだろう。香港の「一国二制度」の形骸化がその最も鮮明な先例であり、中国が約束を長期的に守るという保証はない。
統一後は、人民解放軍および武装警察部隊が駐留し、治安維持と称して反体制活動の監視と弾圧が強化される。インターネットや報道機関には検閲が導入され、反統一や独立を唱える言論は国家分裂罪として処罰対象になるだろう。
また、台湾が有する中華民国軍(台湾軍)は解体・縮小され、その一部は「中国人民解放軍台湾区」の名の下で再編される可能性が高い。残存兵力は沿岸警備や防災といった限定的任務に回され、実質的な武装解除状態となる。
治安維持の主体は、公安部や国家安全部など中国の治安機関に置き換えられ、情報提供・密告の奨励制度が社会に浸透することになる。
台湾内の経済面では、台湾経済を牽引してきたハイテク産業、とりわけTSMCなどの半導体企業が中国本土の経済圏に取り込まれる。技術移転や経営権の中国側への移譲が進み、台湾発のイノベーション拠点は空洞化するリスクが高い。それに伴い、外資系企業も撤退し、台湾内の景気や雇用状況が急激に悪化する可能性がある。
さらに、台湾企業の国有化や中国国有企業の参入により、台湾の中小企業や農漁業も、巨大な中国本土の国有企業を相手としたこれまでと異なる競争環境にさらされることとなる。経済的混乱や台湾内の企業の衰退・疲弊が懸念される。
学校教育や言語まで変わる
「文化的一体化」の実像
文化面では、統一後、中国政府は中国本土との「文化的一体化」を推進するだろう。学校教育から台湾史等の記述が削除され、中国本土の歴史観・愛国教育が導入される。中国語(普通話)の使用が公的生活で強制され、台湾語や清の時代に中国本土から移住した客家人らの方言である客家語は、徐々に公共空間から排除される。
宗教活動や民間信仰も中国共産党統一戦線工作部の管理下に置かれ、政治的に動員可能な宗教団体は奨励される一方、独立志向や批判的態度を持つ宗教ネットワークは解体・粛清されるだろう。
実際、中国本土ではこうした制度的変質をあらかじめ計画し、組織的に実行する準備が進められている。







